Vol.167「本の紹介-街場の教育論」 | NPO法人コモンビート
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Vol.167「本の紹介-街場の教育論」

私が属する武術団体の会報誌には、「本の紹介」コーナーがある。会員が順番に本を紹介していく。
今月は私の番だった。
武道のみならず、学問や礼儀も厳しく指導なさる先生なので、文を書くのも緊張だ。
でも良い機会だと思って一生懸命書いた。
せっかくだから以下にそれをシェアします。
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本の紹介-「街場の教育論」 
内田樹著 ミシマ社
韓朱仙
この本は、著者である内田先生の11講義(大学)が書き下ろされたものです。
「教育」に関する難しさ、大変さ、楽しさを感じられる本でした。
印象に残った話をひとつ紹介します。
安倍元首相が「教育再生」を打ち出したり、多くの政治家や教育関係者が「教育改革」を掲げたりしますが、著者は教育の根本的改革は不可能だといっています。
それは、教育が
「キーを押してから文字が表示されるまで長い時間がかかる」ようなシステムであるから。
また、教育というのは、
「差し出したものとは別のかたちのものが、別の時間に、別のところでもどってくる」システムであり、
喩えて言えば、キーボードを押すと、ディスプレイに文字が出る代わりに、三日後に友達から絵葉書が届いたとか、三年後に唐茄子(とうなす)を二個もらったとか、そういうどこをどう迂回したのかよくわからないような「やりとり」が果たされるのが本義だからと言っています。
私にも確かにそんな経験があります。
去年、一通の手紙をもらいました。
私が教師だった頃の生徒から送られて来た10年ぶりの手紙でした。
内容は、今年から教師になったという報告が書かれていました。私が担任したときにその影響を受け、先生になりたいと夢を持ったそうです。それを実現できたからと感謝の報告でした。
最高に幸せでした。
私の仕事の成果を10年後にこんな形で知ることができるなんて…
これはたまたま手紙をもらえたから知れたことですが、もらえなかったら私の「成果」は確認できません。でもそんなものだと思います。
どこをどう迂回して現れるかわからない。それどころか知らされないで(成果を実感できずに)終わる場合のほうが多い。それが「教育の成果」なんだと思います。
これが、「教育」が決して「ビジネス」になれないし、なってはいけないワケでもあります。
ビジネスでは、キーボードを押してからディスプレイに文字が出るまでの時間差がゼロであるのを理想とするからです。
成果がすぐ、しかもわかりやすく手に入らないとビジネスは成り立ちません。
著者は、日本で「教育」がビジネス化することについてとても危険なことだといっていました。
「教育を『商品取り引き』に類比して語るのは教育の自殺です」と。
「学び」は買い物ではありません。「カタログにない品物は買えない」通販とはワケが違います。
上記は、著者の講義の一部分を紹介したまでです。まだまだたくさんの興味深い話が載っています。首がもげるほど納得しながら読んでしまいました。
著者はまた武道を嗜んだ人でもあり、その大切さも語っていました。
また、教養教育の重要性も孔子の六芸(礼・楽・射・御・書・数)をとおして熱く語られています。
私はこの本を通して人生のヒントをたくさん探せて嬉しかったです。
「成熟は葛藤を通じて果たされる」
世の中にはたくさんの矛盾があります。もっと言えば生きること自体が矛盾だから(生きることは死に向かうこと)、その「矛盾」と葛藤しながら精神的に成熟していきたいと思いました。
いい本と出会えたことに感謝いたします。またこのように感想をまとめる機会があったことに感謝いたします。