表現を解放する、表現で解放する See the difference〜障がいのあるひとたちの表現活動について〜開催レポート | NPO法人コモンビート
企業・自治体の方 学校関係者の方 お問い合わせ

表現を解放する、表現で解放する See the difference〜障がいのあるひとたちの表現活動について〜開催レポート

1/31(火)、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)をテーマに、違いを知り、違いと出会い、違いとつながっていくための「See the difference」の第27回が開催されました!今回のゲストは、コミュニケーションデザイナーの加藤未礼さんです。

画面上から、コモンビートのモデレータースタッフ、手話通訳の方、ゲストの加藤さん。

加藤さんは、福祉事業所の自主生産品のコーディネートや、障害のある人の表現活動の場づくりに関する様々なプロジェクトのファシリテーターも務めています。イベントは、それらの活動に至る背景をお聞かせいただくことから始まりました。

「知的障害のある方が通われている福祉作業所では、従来“一つの作業を全員でする”ことが普通でした。でも、特性は一人ひとり違うから、みんながその作業をできるわけではありません。一人ひとり、その人ができることから、仕事をおこしていきたいと思ったんです。」
「また、同じようなことは、養護学校でも起きています。作業の訓練所や職業訓練校化している養護学校では、その作業ができないと、生産性がない、独り立ちしていない、自立できていない、と見られる風潮があります。でも、例えば、その一つの作業に向かない人が、絵を書いてそれが良かったりするならば、そっちを伸ばしていきたいと思ったんです。」

障がいのある方が描いた、有名な名画を模した絵を見せてくださいました。

この絵を描いた方は、アートや表現の支援の場にいるわけではなかったそうです。作業所以外でも人と繋がれる場所があったら…そこで表現ができたら…。彼のような人のために、誰でも参加できる表現活動の場『アトリエえんじゅく』を立ち上げたといいます。

表現を解放する

『アトリエえんじゅく』に参加しているのは、障がいがある方だけではありません。子どもから大人まで、また、発達障がいのグレーゾーンの方や不登校の方など様々な方がいますが、商店街にあることで通りすがりの人がふらっと参加することもあったそうです。

表現活動というと義務教育にも組み込まれていますが、学校の授業においてはテーマが予め決まっていたり、評価が必ず伴ったり、実は「自由」に表現できる機会はなかなかありません。授業をつくっている側が「上手に」描くことに重きをおけば、その基準に沿うものだけが良い評価を与えられ、そうでないものに関しては、表現した人も自尊心を傷つけられたり、表現に対する恐れや苦手意識が生まれることもあります。

「自由に表現できていて羨ましい。」これは『アトリエえんじゅく』でのびのび表現を楽しむ人たちを見て、とある美大生が言った言葉だそうです。今回のイベント参加者の中からも、いざ表現の場や機会を与えられても、つい「いや、下手なんで…」と遠慮したり萎縮してしまうという声があがっていました。評価や「上手い下手」という基準から表現を開放することは、社会全体の課題なのかもしれません。

表現で開放する

加藤さんのお話はそのまま、コモンビートのやっているミュージカルという表現活動についても展開されていきました。「総合芸術であり、究極の表現活動である演劇。無からあれだけのものを生み出すって、これ以上怖いことないですよね。そこにいったん身を置いてしまえば、極限に追い込まれます。そこでは、普段の悩みなんて気にしていられなかったり、相対的にとらえることができたりしますよね。」

コモンビートのモデレーターからも質問が投げかけられます。「ミュージカルの現場でも、最初キャストのみんなはとてもこわばっています。それがだんだん解放されていき、最後はステージ上でありのままの自分を表現し、とてもオープンになっている。そのように、表現を通じて人が解放されることはアトリエえんじゅくでもありますか?」

「それは知的に障がいがある人とない人でも、違うと思います。知的障がいがある人に関しては、解放されると感じているかどうかがまずわからない。知的に障がいがあっても、やりとりがスムーズな方もいればそうでない方もいるので一概には言えませんが、さっきの話のように、そもそも表現に窮屈を感じてないように見えて、羨ましく思うことがあります。でも、家庭環境だったり周囲の人間関係だったり、どこかで緊張してるという人もいるし、答えがわからない世界です。対して、精神障がいの人たちは、特性としてよりセンシティブ。周りの目を気にして萎縮しているから、表現することで解放されていく部分がよりわかりやすくあるように見えます。」

実際の活動の様子も、写真や映像でご紹介いただきました。

インクルーシブな場をつくるには

そんな障がいがある人達との表現活動において、加藤さんが気をつけているのが「わかった気にならないこと。」はじめて障がいのある子どもたちに出会ったときに、彼らが見ている世界をわかった気になっちゃダメだ、と言われたといいます。経験を繰り返していく中で、私たちの中には「こうゆうもんだ」という型が出来上がっていきますが、実際相手がどう感じているかは、わかりません。いかに、わかった気にならないで、その都度、見て、対話して、質問していけるか。「ラベルをつけようと思ったら、私達もみんな何かしらがつきます。障害に関していえば、社会保障をつけるためのラベルであって。だからって、みんな同じフィルターつけて見ちゃいけないんです。」

また、こんなエピソードも話してくださいました。「重度の知的障がいの成人男性がいるのですが、その方が発した声に対して、5歳の男の子がうるさいって言ったんです。みんなどこか遠慮したりして言えなかったことを、子どもは素直に言えてしまう。あの人はどうしてこうなの?と聞くことができる。それだけで、インクルーシブな場だと思うんです。普段、障がいのある方は家からバスで直接施設に行くことが多いから、子どもたちは街中で出会う機会がないんです。そんな出会いや出来事が貴重だと思っています。」

障がいのある人たちだけで集められることはあっても、障がいのあるなし関わらずに、混ざりあっているところは多くありません。コモンビートでも、隣にいる人が多様である環境をつくっていくことで、そこでコミュニケーションが生まれて、誰かの「できない」を誰かの「できる」で支える循環をつくっていきたいと語られました。

その後、将来アトリエを持ちたいという参加者からの投げかけや、『アトリエえんじゅく』の今後の展望、最初に障害について興味を持ったきっかけ、活動していて感じる葛藤など、参加者からも多くの質問が飛び交い、最後には、一人ひとりが明日からのアクションを宣言!最後に、加藤さんからも「同じような想いを持ったみんなと出会えてよかった!それぞれの表現を今後もそれぞれの現場でしていきましょう!」というお言葉をいただき、イベントは終了しました。


コモンビートでは、団体設立20周年を迎える2023年から、ミュージカルへのアクセシビリティを高めるさまざまな取り組みを、「Musical For All––あらゆるひとに参加と鑑賞の機会を」としてスタートします。
好きなことも苦手なことも、もっと自分らしく表現する。「できる」「できない」をもっと気軽に分かち合う。ミュージカルを通じて、そんな場をつくっていくための、ヒントもいただきました。
ゲストの加藤さん、参加者のみなさん、ありがとうございました!

次回4/19(水)のSee the differenceは、映画・映像に対してバリアフリー字幕や音声ガイドの制作をされている、Palabra株式会社 代表 山上 庄子さんをゲストにお招きします。「エンタメをみんなで一緒に楽しむには?」という、今回とも関連あるテーマになりますので、ぜひお楽しみに!