「挑戦を、楽しめ。」を、3日間で体感——新入生219人の新入生合宿が学校にもたらした変容

福岡女子商業高等学校 × NPO法人コモンビート 実践レポート

新入生合宿をどう設計するか——これは、多くの学校が向き合っている問いです。
入学直後は、生徒にとって学校生活の土台がつくられる時期です。先生と生徒、生徒同士がまだお互いをよく知らない中で、安心して自分を出し、挑戦し、誰かと助け合える関係性をどう育むか。その体験は、その後の3年間の学び方や学校生活への向き合い方にも大きく影響します。
※ 令和5年3月 文部科学省 「総合的な探究の時間」の指針では「感性を豊かに働かせながら、どのような未来を創るのかを自ら考え出す力」の育成が示されています。

福岡女子商業高等学校が掲げる理念は、「挑戦を、楽しめ。」
2026年4月、同校はこの理念を新入生219名が身体で感じる機会として、NPO法人コモンビートの「表現教育CAMP」を新入生合宿に導入しました。仲間とともに3日間でミュージカルを創り上げるこのプログラムは、生徒たちにどのような変化を生み、学校に何をもたらしたのか。
現場のドキュメントと、生徒・先生・スタッフの声からお伝えします。

【なぜ、福岡女子商業高校は “表現教育CAMP” を選んだのか】

(引用元:福岡女子商業高校HP)

福岡県那珂川市に拠点を置く福岡女子商業高等学校。「挑戦を、楽しめ。」という理念のもと、生徒一人ひとりが失敗を恐れず自らの可能性に挑戦できる環境づくりを推進してきた同校は、その先進的な学校づくりへの取り組みが全国から注目を集め、視察や見学に訪れる教育関係者の方もいます。外部との連携や新しい取り組みにも柔軟に向き合ってきた同校が、2026年4月の新入生合宿に採用したのが、NPO法人コモンビートの「表現教育CAMP」です。

柴山翔太前校長はこう話します。
「本校は、『挑戦を、楽しめ。』という理念のもと、生徒一人ひとりが失敗を恐れず、自らの可能性に挑戦できる環境づくりを大切にしています。今回、新入生合宿において『表現教育CAMP』を導入することは、生徒同士が互いの違いを認め合いながら、自分の想いや個性を安心して表現できる関係性を築く、大きな一歩になると考えています。本取り組みが、新入生にとって女子商での学びの原点となり、互いの挑戦を応援し合う文化の土台となることを、心から楽しみにしています。」

【プログラムの全体像】表現教育CAMPとは何か

「表現教育CAMP」は、2〜4日で合宿形式で行われる、共創ミュージカルキャンプ。
コモンビートのミュージカル『A COMMON BEAT』のダイジェスト作品を、地域の大人(ミュージカル経験者)と一緒につくり、最終日に舞台で発表します。舞台は、役割を演じる場ではありません。このCAMPを通して築き上げた仲間とのつながり、そして「高校生活をどう過ごしていきたいか」という想いを、一人ひとりが自分の言葉で表現する場として設計されています。今回の3日間は、以下のテーマと流れで構成されました。

日程テーマ主な内容
1日目関係構築ファミリー(少人数チーム)結成 / ダンスワークショップ
/ 大陸別発表 / 振り返り
2日目創造学年全員での演目創作 / 通し稽古 / キャンドルナイト(宿泊)
3日目挑戦最終リハーサル / 本番(成果発表) / 振り返り・クロージング

毎日の始まりと終わりには「ファミリータイム」と「振り返り」が組み込まれており、その日の体験を言語化・内面化することで、単なる「盛り上がりで終わらない合宿」となる仕掛けが施されています。
今回の実施規模は、生徒219名・スタッフ約30名の合計250名近くが参加。最終日には保護者を中心に180名近くの観客を迎え、ミュージカル『A COMMON BEAT』の特別版(約50分の濃縮版)を上演しました。

このプログラムには、2つの特徴があります。
1つ目は、先生たちも「運営する側」ではなく「参加する側」に回るという点です。先生が生徒と同じ立場でダンスを練習し、発表に臨む。その構造が、日常の「教える・教わる」という関係性を一時的に解除し、新しい信頼関係の土台をつくります。

2つ目は、関わる大人が教育のプロでも、パフォーマンスのプロでもないという点です。

一般的なプロによる表現教育プログラムには、圧倒的な感動や没入体験があります。完成されたパフォーマンスは生徒の心を動かし、大きな刺激を与えます。しかしその分、生徒が自己決定できる余白は少なく、「感動した体験」として記憶に残っても、「自分もやってみよう」という主体的な行動にはつながりにくい側面があります。
表現教育CAMPのスタッフは、教育のプロでも、パフォーマンスのプロでもありません。会社員、学生、フリーランスなど、バックグラウンドも年齢も異なる、普段は舞台とは無縁の市民たちです。ただ、コモンビートの「100人100日ミュージカル®」を通じて、自分自身もコンフォートゾーンを超え、苦しみながら挑戦し続けてきた——そんな「成長し続ける大人」が、生徒と同じ場に立ちます。完成された体験を届けるのではなく、挑戦し続ける人間そのものを届けることで、「自分もやってみよう」という主体的な行動が引き出さるプログラムになっています。

【3日間のドキュメント】現場で何が起きていたのか

1日目:生徒も先生も一緒に。お互いの関係をつくっていく時間

体育館に集まった219名の新入生。互いの顔も名前も知らない状態から、3日間は始まりました。
「ファミリー」と呼ばれる8人前後の少人数チームを結成し、15分以内に10個以上のミッションを全員でクリアするゲームからスタート。チーム名を決め、互いの名前を呼び合ううちに、少しずつ緊張がほぐれていきます。

午前中のダンスワークショップでは、4つの大陸(チーム)に分かれ、それぞれ異なるジャンルのダンスを習得。午後の発表では、習得した12曲を全員の前で披露しました。
この発表に、担任の先生たちも生徒と並んで参加しました。
発表後には緒方泰士校長先生がその場でブレイキングダンスを披露し、体育館に歓声が上がる場面も。「挑戦を、楽しめ。」という理念を、大人たちが率先して体現していました。

2日目:「高校生活で大切にしたいこと」を宣言

宿泊施設に移動した2日目。午前から演目の創作と稽古が本格化し、学年全員で一つの作品を作り上げる作業が続きます。
夜のキャンドルナイトでは、まずスタッフが自らの人生を包み隠さず語りました。
紆余曲折の人生を、自分の言葉で語る大人の姿。そして先生が、生徒に向けてこう言葉にしました。

「10数年間の教員生活で、合宿という空間に全員が参加したのはこれが初めてです。合宿が得意な子ばかりではない。それぞれ不安や我慢を抱えながら来てくれていると思います。先生という仕事は、苦しいと感じる瞬間の方が多い。でも、みんなの頑張りが、先生たちの大きなパワーになる。しんどい時は頼ってください。絶対力になります。この3年間、一緒に成長していきたいです。」

「正解を持った先生」ではなく、「迷いながら生きてきた一人の人間」として生徒に向き合う大人たちの自己開示。その後、今度は生徒が「高校生活で大切にしていきたいこと」を30秒間、自分の言葉で話す番でした。
「挑戦しようか迷った時、失敗したらどうしようって先のことを考えて立ち止まってしまう。その怖がることがもったいないと思った。今どうしたいか、今どうなりたいかを考えて動いていきたい。」
「中学の頃、リーダーをやってみたかったけど周りの目が気になってできなかった。高校ではその自分を変えるために、積極的に挑戦を続けたい。」
入学からまだ数日。それでも生徒たちは、自分の言葉で、自分のことを話し始めていました。

3日目:仲間とともに本番に挑む。

本番当日の朝。最終リハーサルを経て、最後のファミリータイムへ。スタッフから生徒一人ひとりへ、手書きの漢字一文字とメッセージが記されたカードと、お祝いムービーが届けられました。
「挑」「楽」「絆」「可能性」——それぞれの生徒に向けた、個別の言葉。219枚分の、手書きの想い。「あなたのことを、3日間ちゃんと見ていた」——その想いが、生徒たちを舞台へと送り出しました。

観客席には保護者・在校生合わせて180名近くが見守る中、250名近くが舞台に立ちました。3日前には互いの名前も知らなかった生徒たちが、一つのミュージカルを創り上げた瞬間でした。

本番後、緒方校長先生は生徒たちにこう語りかけました。
「生徒の皆さんの顔が、2日前と全然違います。本当に胸がいっぱいです。この3日間で、『どうしようかな』『難しいかもな』と思い、迷ったり戸惑ったりした瞬間があった人?」
問いかけると、あちらこちらから手が挙がりました。
「そこで、ちょっと勇気を出せた人は?」
今度も、手が挙がりました。
「これだけの生徒が頑張ることができました。みなさん、大きな拍手をお願いします。これから先の高校生活も、ちょっと勇気を出さなくちゃいけない瞬間があると思います。ぜひそれを、みんなで応援し合えるようにできたらいいなと思います。いい時間を一緒に過ごせました。ありがとうございました。」

解散した後、歓声をあげる生徒、手を取り合って泣く生徒——その光景を、スタッフたちも同じ熱量で受け止めていました。

【生まれた変容】3つの場面

場面①「挑戦しても大丈夫だ」——心理的安全性の体感

生徒の自己肯定感や主体性を育てたい。そう考えながらも、「どうすれば体感させられるか」という手段に悩む学校は少なくありません。講義や言葉で伝えるだけでは届かない。かといって、日常の授業の中で安全に失敗できる場をつくることは容易ではない——。

表現教育CAMPでは、「うまくやること」より「挑戦すること」が価値を持つ場が設計されています。ダンスが苦手でも、歌が得意でなくても、「まずやってみる」ことに意味がある。その体験が、心理的安全性を言葉ではなく身体で知ることにつながります。大人が先に「挑戦する姿」「迷う姿」「感情を出す姿」を見せる。その積み重ねが、生徒の心を開いていきました。

「前の私だったらこんなに楽しめなかったと思う。環境や関わる人たちに感謝しています。」
「緊張を楽しいに変えていきたいです。」

1日目の振り返りアンケートでは、120人中93人(78%)が「楽しかった」と自由記述。そのうち23人が「不安や緊張があったけど楽しめた」と気持ちの変化を記述していました。

場面②「言われる前に動く」——主体性の芽生え

「やればできるのに、自分から動かない」「指示待ちになってしまう」——教員からよく聞かれる悩みです。主体性は「教えて育てるもの」ではなく、「自ら動いた体験の積み重ね」によって育まれるものです。
このプログラムには、自己選択の機会が随所に設計されています。ソロに立候補する、役割を申し出る、知らない人に話しかける——どれも「やるかやらないか」を自分で決める場面です。

「自己選択の機会が多かった。いろいろな役割がある中で、自分が輝ける場を見つけられる。だからこその達成感があったのではないか。」

アンケートでも、「自分から話しかけた」「積極的に行動した」と記述した生徒は回答者の約6割にのぼりました。

「自分はとても人見知りだけど、たくさんの子に話しかけることができました。」
「普段はあんまり自分から話さないけど今日は頑張って初対面の人に話しかけました。」

「まずやってみる」という小さな一歩の積み重ねが、主体性の土台になっていました。

場面③「助けてもらい、助けたくなる」——他者との協働とチームビルディング

学校生活においても、社会に出てからも、「一人でできないことを誰かと成し遂げる」経験は欠かせません。
しかし、競争や評価が中心になりがちな学校環境の中で、純粋に「頼り合う」体験をする機会は意外に少ない。
219人でひとつの舞台を創るというプログラムの構造上、「一人で完結する」ことは不可能です。「ファミリー」や「大陸」というコミュニティの構造が、一人ひとりに「ここにいていい」という存在承認の感覚をもたらし、ダンスが得意な子も、人見知りな子も、目立つことが苦手な子も、全員に役割があり、全員が必要とされる。
キャンドルナイトで先生が「しんどい時は頼ってください。絶対力になります」と言葉にしたように、大人が先に「頼っていい」という空気をつくることで、生徒たちも互いに頼り合える関係性へと変わっていきました。

「お友達とお話しながらやることで、少し緩和され、楽しいと思うことができました。誰かの力で苦手を克服できるというのは有り得ることなのだと知りました。」
「今日はみんなに教えてもらってばかりだったので、明日は自分が周りの人に教えられるように頑張りたいです。」

教員もプレイヤーとして同じ場に立ち、一緒に苦しみ、やり切る体験を共有することで、「指導する側・される側」という日常の構図が解除されます。教員同士がお互いをさらけ出す体験を通じて、学年チームとしての一体感も深まります。生徒と教員、そして生徒同士——複数の層で同時に関係性の質が変わることが、このプログラムの特徴です。

NPO法人コモンビート 表現教育担当理事 河村勇希
「新しい環境に飛び込む新入生にとって、”自分を出していいんだ”と感じられる体験は、その後の学校生活を大きく左右する大切な土台になります。表現活動には、言葉だけでは届かない感情や個性を引き出し、人と人の間に安心感と信頼を生み出す力があります。先生も生徒も同じ場に立ち、ともに何かを創り上げる体験が、日常では生まれにくい関係性の土台をつくります。この3日間が、生徒の皆さんにとって自分らしく一歩を踏み出す原体験となることを心から期待しています。」

【締め】3日間が、3年間の土台になる

入学直後の3日間で何を体験するか。それは、その後の3年間の学校生活の質を大きく左右します。
「挑戦しても大丈夫だ」「自分を出していい」「助けを求めていい」——そうした感覚を身体で知った生徒は、教室でも、部活でも、進路選択の場面でも、その体験を土台に動くことができます。
そしてそれは、生徒だけの変化ではありません。先生と生徒が同じ場で挑戦し、ともに感情を出し合った3日間は、その後の学校生活における信頼関係の土台にもなります。

プログラムの終盤には「非日常から日常へ」というテーマで振り返りの時間が設けられ、「なぜ自分は一歩踏み出すことができたのか」「これを高校生活でも実現するためには何が必要か」を言語化します。さらに、この3日間をともに過ごした地域の大人たちは、キャリア教育の授業やプロジェクトを通じて定期的に関わり続け、「挑戦を応援してくれる身近な大人」として生徒の高校生活に寄り添い続けます。知識でも技術でもなく、体感として刻まれた心理的安全性と主体性。それこそが、表現教育CAMPが3日間でもたらすものです。

【お問い合わせ】

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【関連リンク】

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