「うちの味を守りたい」中里友一 | NPO法人コモンビート
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「うちの味を守りたい」中里友一

「うちの味を守りたい」中里友一

空白の30年を、今埋めている

「店を継ぐつもりはなかった。」
両親が創業40年の洋食屋を経営しており、コモンビートの舞台監督をつとめる中里友一さんは静かに語った。


学生時代は店を手伝っていたが、高校卒業後、芝居の道に突き進み30年。コモンビートの舞台監督のほか、今現在も数多くの舞台の技術スタッフとして活躍している。
「もう料理人の道には戻れない。」と彼は思っていたという。
そんな彼の決意を動かしたのは、今年の初め「店の方針を変える」と両親から聞いた事がきっかけだった。
新規事業に向けてチラシ作りを手伝い、実家の店のハンバーグを久々に味わった時、「やっぱり親父の作るハンバーグはウマいって思った。うちの味を守りたいって強く感じた。」
彼の決意を、より一層強くする出来事があった。
仕事を続けながら南極マラソン完走を果たした、コモンビート出身の赤坂剛史さんのインタビューの中で『自分の中でやらないという選択肢はない。どちらか選べないなら両方やればいい。』という言葉が彼の心に深く響いたという。
「自分にとって、家業もコモンビートも大切。どっちも選べない。ちょうど迷っていた時だったので、この言葉が背中を押してくれた。家業と舞台監督の両立を決心できた。」
彼は週末、コモンビートの舞台監督やその他の舞台の技術スタッフを今まで通りつとめ、その傍ら平日は実家の洋食屋で研修している。
「30年間、舞台で培ってきた技術をすべて捨てて、厨房に入っている。
料理人としての空白の30年を、今埋めている。
味は守りたいけど、48歳という自分の年齢から考えて、同じ歳の料理人と技術的に並ぶには時間がかかるし不可能かも知れない。
理想と現実のギャップに苦しんでいる。」
「うちの味を守りたい」中里友一

一定の距離を保つ事で守っている。

彼はミュージカル『A COMMON BEAT」の舞台監督として最初の公演からずっと舞台を支えている。
「劇団の後輩に頼まれたのがきっかけで、ミュージカルの舞台監督をする事になった。最初は正直、素人の寄せ集めだと思っていた。でも練習を見学させてもらった時、とても元気に真剣に練習しているのが好印象だった。可能な限り前向きに取り組む姿勢にどんどん自分も引き込まれていった。」
「深く入り込み過ぎて失敗する事もあった。一線を超えてしまうと、キャストがかわいくて何でも許してしまいたくなる。それでは舞台をキャストを守れないと気付いた。それからは、一定の距離を保つ事で守っている。」と彼は厳しくも優しいまなざしで話す。
失敗から学び、そして数々の経験を積み重ね、彼ならではの舞台監督としてのスタイルを確立してきた。
その姿勢は、家業を『守る』事においても変わらない。
「店をそのまま継ぐというよりは、あくまでも店の味を守っていきたい。ライフワークであるコモンビートの舞台監督を続けながら、自分らしい方法とスタイルをみつけて、店を守る事が目標。」
迷い悩みながら自問自答を繰り返しながら、舞台と家業を両立する彼。
どちらも『守る』という彼の究極の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

 中里友一さん

中里 友一(なかざと ゆういち)
本名:中里 康幸(なかざと やすゆき)

高校卒業し役者の道に進み、劇団『俳協』に20年間所属。
劇団の後輩に頼まれたのがきっかけで、コモンビートがNPO法人を取得する以前の2003年のミュージカル『A COMMON BEAT』(0期公演)から舞台監督として参加。豊富な舞台経験を生かし、美術プランナー、振り付け師としても活躍。
5期公演(東京)では自らキャストとしても参加。
趣味はマラソン。今までに数回、フルマラソンの完走を果たす。