「自分らしく、たくましい個人を増やし、互いの多様な価値観を認め合える社会の実現を目指す」NPO法人コモンビート(以下、コモンビート)。コモンビートは、さまざまな年齢や職業の100人が集まり、お互いの個性を響き合わせて創り上げる「100人100日ミュージカル®プログラム」を全国各地で開催しています。
プログラム参加者の生の声をお届けする『人生アンサンブル』第4回は、2022年10月にコロナ後初となる関西公演に参加した荻野樹(ぎょる)にインタビューを行いました。このプログラムを通じて、どのような経験をし、どんな学びを得て、そしてその後の人生にどんな変化や影響があったのか。『人生アンサンブル』、スタートです。
※本記事は、2022年9月に作成された内容をリライトしたものです。
大学生が、舞台で社会人とまじりあう
ぎょるは当時、舞台が大好きな大学生。大学に通いながら、舞台役者をめざしていました。彼にとって、さまざまなバックグラウンドを持つ大人たちと1つの作品を作り上げるプログラムは、役者として新しい経験ができる魅力的な場でした。「今までにない、新しい化学反応が、自分の中で起こるかもしれない」と期待を膨らませ、コモンビートの門をたたきました。
プログラムに参加する理由は人それぞれ。「歌うことが好き」「今の自分の環境にモヤモヤがある」「新しい視点を得たい」など様々ですが、ぎょるにとっては「舞台役者として学びたい」という思いが参加の原動力でした。

期待を裏切ら期待を裏切らなかった「カオス」
実際に参加してみて、ぎょるはどう感じたのでしょうか? 彼はこう話してくれました。
「いい意味で、期待を裏切らなかったですね。とにかくカオスで、『舞台を楽しむ』という本質を、思う存分に味わいました。印象に残ってるのは、『となりのトトロ』の『さんぽ』に合わせて、大人たちが普通にスキップを始めたところですね。あの瞬間は、学生の僕にとってすごく新鮮でした。普段は真面目に仕事をしているだろう大人たちが、肩書きとか役職に関係なく、ただ楽しんでいる姿がすごく印象的で…それがすごく良い意味で意外でした。」
異文化理解と「人のエネルギー」
ミュージカル「A COMMON BEAT」のテーマは「異文化理解」。その制作過程においても、異なる背景や価値観をもったキャスト同士が、その違いを認めあって協力していきます。当初「舞台役者として学びたい」と思っていたぎょるですが、学生も社会人もそれぞれが普段の仕事や肩書きにとらわれず、のびのびと表現する様子を見て、「これがまさにコモンビートで体感できるミュージカルプログラムの醍醐味なのかもしれない」と思い、さまざまな立場から生み出される「人のエネルギー」を目の前で感じられることはとても刺激的だったそうです。

「僕の場合、大学で普段から芝居をしているので、舞台に立つのは当たり前。でも、コモンビートにいま一緒に出演している他の人たちは、違います。プログラムが進む中で、『一人ひとりがどんな想いで、この作品に参加をしているのか』と聞くと、本当にさまざまな答えが返ってきました。それを聞くだけで、その人の考え方や生き様が垣間見えて、刺激を受けることができました。これが『人のエネルギー』で、普段の学校生活やコミュニティではなかなか感じられないものです。この非日常を経験できたのは、本当に貴重でした。」

肩書きや役職にとらわれず、1人ひとりと丁寧に向き合って話してみると、その人ならではの具体的な考え方や背景がその人らしさと共に見えてきて、新たな発見もある。そんな何ものにも代えがたい体験によって、人との向き合い方が変わっていく。
「前だったら、自分の中の固定概念やフィルターを通して、人を見ていたと思うんです。でも今は、『この人の魅力って、こういう角度から見えるな』って考えられるようになって、人との関わり方がすごく豊かになったなって感じてます。」
舞台舞台役者として、多様性を活かす
ぎょるは、舞台役者としての経験を積んだだけでなく、いち個人としての自分の変化も感じることができたと話します。そして、多様性を活かすとはどういうことかを、頭ではなく「体感」として吸収できたことが、大きな学びだったと話してくれました。コモンビートのプログラムに参加したことで、「日常を生きる足がかり」を得た──ぎょるはそう語ってくれました。
ここで少し、コモンビートが大切にしているビジョンについても触れさせてください。
私たちが表現活動にこだわるのは、
それが「ありのままの自分」に戻る体験だからです。
自分をありのまま受け止めることは、
他者との違いを受容する力になる。
それは、ひとりひとりが個性を発揮し、
多様で調和した社会を形づくる大切な一歩だと
私たちは考えます。
この言葉の意味を、ぎょるさんはプログラムのなかで、そしてコモンビート理事長・安達亮(りょう)の言葉からも実感として受け取っていました。
りょうは、よくこう話します。
「ミックスジュースではなく、フルーツポンチを創りたい」と。
もちろん、どちらにも良さがあります。ただ、ミックスジュースは混ざり合うことで素材の姿が見えなくなってしまう。一方でフルーツポンチは、それぞれの果物のかたちや味わいがそのまま活かされながら、ひとつの調和を生み出す。
ぎょるも、「多様性って聞くとちょっと難しく感じるけど、それぞれが自分らしくあり続けるっていう視点を持てば、実はそんなに難しくないんですよね」と話してくれました。そして、「コモンビートのミュージカルには、そういう場が自然とある」とも。
彼がその中で感じた“鼓動”は、次の誰かへと確かに受け継がれていくのだと思います。

一人ひとりの小さな変化が、よりよい社会をつくる——。
あなたも一緒に、ステージに立ってみませんか?