「大切な事は、すべて自分のカラダが知っている」
9月も終わろうとしているのにもかかわらず、真夏のように暑い休日。
石川さやかさんは、夫の佳央さんと2人の息子と共に、近所にある馴染みの店を訪れる。
彼女は、2児の母として子育てをしながら、ファミリーダンス教室“NeWBorn”(ニューボーン)を主宰するほか、夫と共に株式会社を立ち上げた。
その溢れんばかりのエネルギーは、一体どこから湧いてくるのだろうか…。
「私はダンス歴25年。小学校4年生から新体操を10年やり、その後はジャズダンスやヒップホップをやってきた。
今までに3回ダンスから離れかけた事があった。一回目は大学生の時、普通の生活をしてみたくて。2回目は社会人の時、3回目は子どもを出産してすぐの頃。忙しくてダンスをする時間を確保するのが難しかったから」
ダンスから離れかけるたびに彼女はもの足りなさを感じ、ダンスに戻ったという。
ファミリーダンス教室のアイデアが生まれたのは、まさしく彼女のそんな体験からだった。
「やっぱり自分にはダンスが必要って感じて、子育て中も託児所付きのダンス教室を見つけて通っていた。ダンスをしていると私は楽しいけど、託児所に預けられてる子どもはつまらなそうだった。逆に子どもが主役のリトミック(子ども向けのダンス)は、こっちが飽きてしまって…。大人も子どもも、一緒に楽しめるものがないかなって思った時、このファミリーダンスを思いついた」
ファミリーダンスは、親が子どもを抱っこや肩ぐるまして踊ったり、ベビーカーを踊りの手具に取り入れたりと、とてもユニークなダンスだ。
「子育て中のお母さんは、どうしても外出が少なくなり、社会から隔たりを感じる事も多い。
このダンス教室が社会とつながる場になったらいいし、単純に体を動かせば運動不足やストレス解消にもなるし、楽しい!
ファミリーダンスは、お母さんも子どもも笑顔になれる」
ファミリーダンスは彼女の周囲のママ友から輪が広がり、10月からは神奈川県藤沢市のダンススタジオで本格的にダンス教室として始動する。
「どのくらい人が集まるかは、始めてみないと分からない。最初は少ないかも知れないけど、来てくれた親子が楽しんでくれて、口コミで少しずつ広まってくれたらそれでいい」
彼女はおおらかに、そう話す。
そんな彼女の活動を常に見守り応援しているのは、夫の佳央さんだ。
「私にとって佳央の存在はとても大きい。人に安心感を与えつつも人を楽しませてすごいなって思う。私にないものを持っていて、いつも学ばせてもらってる。そして私達は、家事も育児も夫婦間で完全シェア。やって当たり前っていう感覚はなく、どちらかがやったら、その事に対してお互い、自然と感謝できる」
そして、石川家流の子育ても実に自然体だ。
「うちは出産、育児書は一切読まない。大切な事は、すべて自分のカラダが知ってるって思うから。そして、大人の常識を子どもに当てはめない。子ども扱いして頭ごなしに叱るのではなく、できるだけひとりの人間として、説明するようにしている」
家族みんなが楽しく気持ちのいい暮らしをする事が、彼女のモットーだ。
「私はダンスで生かされている」
もう一方で彼女は、夫と共に株式会社“melmic”(メルミック)を設立した。この会社はダンスをツールとして企業に研修を提供するという、これもまた彼女ならではの発想だ。
「私が以前エンジニアとして働いていた会社で、社内の親睦を深める一貫としてダンスコンテストが企画された。
初めての試みだったので、ダンス経験のある私が指導を任される事になった。本番は、普段まじめに働いているオジサン達が、弾けそうな笑顔でものすごいエネルギーに満ちて踊っていた。これに私自身衝撃を受けたのがきっかけで、このプロジェクトをいつか広く社会に活かしたいって思った」
そんな時彼女に結婚・妊娠という転機が訪れた。
「妊娠すると色々諦めなきゃって思う人もいるかも知れないけど、私は妊娠はチャンスだって思った。この期間に大学院に入って、いつかダンスをツールにしたプロジェクトを実現するために、色々学びたいって考えた」
そして彼女は受験勉強を始め、長男が臨月の時に大学院を受験し見事合格。
子育てしながら、大学院に通う。
在学中に次男を妊娠し、出産後5日目から布団に横になりながらインターネットで講義を受けたという。
夫の協力もあり今年3月に無事卒業する。
その後、ダンスをツールにした会社を立ち上げる。
「社員が一緒にダンスをする事で、同僚の新たな一面が見えたり、素の笑顔が見れて親近感がわいたり、部下が上司にダンスを教えるなど普段の立場が逆転する事もある。逆の立場を体験する事で、お互いの気持ちが理解できてさらに信頼感が深まり、仕事にも成果が出ると思う。
会社の方針やプログムが固まり、最近は少しずつ興味を持ってくれる情報誌なども増えてきたけど、まだまだこれから!」
そして彼女はこうも話す。
「私はダンスによって生かされているって思う。ダンスの楽しさと喜びを少しでも多くの人に伝えたい。それがその人たちの生活自体をいきいきさせると信じているから。
私自身、以前はエンジニアである自分とダンサーである自分の狭間で苦しくて、どっちかを諦めなくてはいけないって思った事もあったけど…自分がやってきたダンスを企業や社会で活かせると確信した時、そんなねじれた人生がやっとひとつになった。
今、自分らしく生きられている」
ダンス、仕事、子育て、そして彼女を取り巻く環境が今、彼女の中でひとつに融合され、彼女自身の生きるチカラになっている。
今日も彼女は彼女らしく生きる。まるで踊るように軽やかに…。
石川 さやか(いしかわ さやか)
高校の友人の結婚式に出席した時、ミュージカル『A COMMON BEAT』に参加している同級生と会い、6期プログラムにキャストとして参加。7期プログラム(中部・関西)ではキャスト兼スタッフとして活躍する。
25年のダンス歴と社会人、母親としての経験を生かし、ファミリーダンス教室“NeWBorn”(ニューボーン)とダンスをツールに企業に研修を提供する株式会社“melmic”(メルミック)を立ち上げる。1歳と3歳の2児の母。