「これを仕事にできたら最高」小野寺 啓子 | NPO法人コモンビート
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「これを仕事にできたら最高」小野寺 啓子

「これを仕事にできたら最高」小野寺 啓子

「文化的勘違いがすべてのはじまり」

noridan(ノリダン)は『遊びのプロ集団』である。『ノリ』とは、韓国語で『遊び』を意味する言葉。
noridanは韓国で2004年に誕生し、『芸術を通して遊びながら学ぶ』をコンセプトにした青少年向けのパフォーマンスやワークショップを提供している公共的文化企業だ。
そんなnoridanのパフォーマンスに魅せられ、現在『日本noridan青年準備チーム』のメンバーである小野寺啓子さんは、ゆっくりと穏やかな表情で語り始める。


「友達に『韓国からスゴイ団体も一緒に出る』と誘われて、日韓交流お祭りによさこいアリランのパフォーマーとして出演したのがきっかけで、この時noridanのパフォーマンスを初めて観た。
廃材を利用した手作りのリサイクル楽器の演奏や、彼らの自分の体を楽器にみたて音を奏でるパフォーマンス(ボディパーカッション)と歌声にうっとりした。
演奏後、楽器を囲んでメンバーと話した時も、メンバーひとりひとりから出るエネルギーがものすごかった。
noridanはパフォーマンスだけでなく、実際にリサイクル楽器作りやボディパーカッションのワークショップも開いている。不要だと思っていた物だって、工夫次第で世界にひとつしかない素敵な楽器になる。自分からこんな音がでる。
自分には何もできないって思っていた子どもや若者が、自信を持って社会で生きていけるきっかけになるプログラムを提供している。noridanの『人や物のリサイクル』や『命をふきこむ考え方』にすごく共感した。自分もこれを日本でやりたいって思った!」
その後、彼女はそのイベントに誘ってくれた友人に「自分もnoridanみたいに、芸術を仕事にしたい」と話したところ、東京noridan立ち上げの活動に誘われ、ミーティングに参加した。
そこにいたメンバー数人は、同年春のイベントでnoridan団員が配った”東京noridan結成します”という告知のチラシを手にしたという。
彼女と同様にnoridanに魅せられた仲間だ。
「そのメンバーから聞いた話によると、日本人的感覚として、そんなチラシが配られているんだから、もう東京でnoridanをやる準備はできていての団員募集だと思って連絡した。でも後で判明したんだけど…韓国人は計画ができた時に宣言するらしくて。実際には何も形になっていなかった。
これを聞いた時、文化的勘違いがすべてのはじまりだったんだって思った」
と楽しそうに彼女は笑う。
その後彼女と仲間は、来日したnoridanの団長に会い、日本でnoridanを企業化したいという想いを伝える。熱意が団長に伝わり韓国研修が許可され、韓国へ短期研修に行く。そして彼女達が中心となり日本noridanを準備していく方向に話が進んだ。
そのメンバーで、日本noridanを立ち上げるために『日本noridan青年準備チーム』を結成した。
コアメンバーは4人。うち2人は韓国に留学しパフォーマンスを学んでいるという。
彼女ともう1人のメンバーは日本に残り、広報活動や人材探しなど、少しずつ基盤を固めていく活動をしている。
「noridanは、もともとは韓国の就職難民向けのプログラムを企業化したもの。韓国と日本では、文化も違うし社会の基盤も異なる。noridanのスピリットは大切にしながらも、日本の社会に合った日本スタイルのnoridanを作っていきたい」
日本noridanは、2013年4月の企業化を目指している。
「これを仕事にできたら最高」小野寺 啓子

「芸術のチカラを信じている」

彼女がミュージカル『A COMMON BEAT』に出会ったのは、日本語学校で教師をしている頃だった。
「授業の休憩時間にたまたまロビーに出たら、『A COMMONBEAT』6期公演のチラシを配ってる韓国人の生徒がいた。その生徒が出演すると聞いて、つきあい程度に公演を観に行ったら、とっても感動した。
そしてまず何よりも、ミュージカルの内容に深く共感した。私の人生のテーマは『平和』。それにピッタリだと思った」
もともと表現する事に興味があった彼女は『A COMMON BEAT』12期プログラムにキャストとして参加する。
しかしなぜ彼女は、人生のテーマが平和なのだろうか…。
「中学生の時、イランイラク戦争の映像を見て、子ども達が銃を向けあっている事にとてもショックを受けた。なんで隣の国同士でいがみあってるんだろうって。
身近なところで、日本と韓国も歴史上色々あった。
実は私のおじいちゃんは韓国人。母親が20歳の時に帰化しているから私は日本人として育ったけど、私の中に4分の1は韓国人の血が流れている。それもあって、自分の身近なところから働きかけて、世界をひとつにできたらいいなって思った。それから私の人生のテーマは『平和』になった」
彼女は学生時代から国際問題に関心があり、日本大学芸術学部放送学科に入学する。
「報道に興味があって、キャスターを目指したくて放送学科に入った。
キャスターになるために、まずはアナウンサー試験も受けたけど、結局落ちてしまった。…今考えると本気じゃなかったと思う。勉強しながら私の本当にやりたい事は、キャスターじゃないと薄々気付いていたのかも知れない。
私の学部は英語と国語の教員免許も取れたので、試しに英語の教育実習に行ったらとても楽しくて。教師の道を目指した」
現在、彼女は非常勤で高校で英語を教えるかたわら、夜は塾で日本大学芸術学部を目指している高校生に、演技や表現力を指導している。
そしてさらに、noridanの日本での企業化を目指し準備を進めていくという、実に多忙な日々を送っている。
「私は教育現場が好き。とてもやりがいを感じるし、できれば離れたくない。でも教師という立場上、標準的な大人にならなくちゃって、自分を押さえこまなきゃいけない事もある。
私はコモンビートに参加して、改めて表現する事が好きって思った。
自分の中から湧き上がったフツフツしたものを出さないといられない。自分らしくあるために芸術は必要。noridanは教育と芸術、私が最もやりたいこの2つが同時に叶えられる。これを仕事にできたら最高」
そして彼女は覚悟を決めた眼差しでこうも語る。
「生きる上で、芸術はどうしても後回しにされやすい。でも私は芸術のチカラを信じている。芸術を身近なものと感じて、本来の人間らしさを取り戻してほしい。遊びやパフォーマンスを通して、子ども達に芸術の楽しさを伝えていきたい!」
好きな事を仕事にするのは決して簡単な事ではない。好きな事を好きなままでいるには、職業に選ばない選択肢もあるからだ。
しかしそんな思いも飛び越えて、彼女はあえて好きなことを企業化して、職業とする選択をした。
色々な回り道からたくさんの体験を得て、ついに自分の天職と呼べるものにたどり着いたのだ。
彼女は芸術のチカラを信じ前に進む。
彼女の『平和』という壮大な人生のテーマに向かって…。

小野寺啓子さん

小野寺 啓子(おのでら けいこ)

ミュージカル『A COMMON BEAT』12期プログラムにキャストとして参加、15期ではキャスト兼スタッフを務める。
日本大学芸術学部放送学科卒。
現在は高校で英語の非常勤教員と、夜間は塾で日本大学芸術学部を受験する生徒に表現力と演技指導などを行う。

韓国の公共的文化企業である『noridan』に魅せられ、『日本noridan青年準備チーム』のメンバーとして、2013年4月からの企業化を目指し日々奮闘中

noridan(韓国語)
日本noridan青年準備チーム