自分の足で進むしかない
「マラソンは人との勝負じゃない!昨日の自分との勝負なんやと思う」
10月30日に大阪マラソンに挑戦する中林信人さんは、力強くそう話す。
彼は、過去3回フルマラソンに出場し全て完走を果たしている。
学生時代の部活は文化系。芸術家肌で運動は得意ではないという彼が、
なぜマラソンに惹かれていったのか…。
彼は2年前、ミュージカル『A COMMON BEAT』15期プログラム(東京)のチーフディレクターに応募するが、惜しくもその希望は叶わなかった。
「それまでは、『A COMMON BEAT』が自分のアイデンティティみたいなところがあった。それがチーフディレクターになれなかった事で、今まで情熱を注いでいたものが自分の中から、ポンと無くなった」
他に情熱を注げる何かを探していた時、コモンビートの仲間達とフルマラソンの大会に出場する企画を知る。以前ハーフマラソンを経験していた彼は、フルマラソンも経験してみたいと思い参加した結果、無事完走を果たすことができた。
「初フルマラソンのタイムはめっちゃ遅かった。でも、自分の全身を使ってゴールにたどりつけた時、今まで感じた事のない達成感を味わえた。また挑戦したいと思ったのは悔しいというより…またあの達成感を味わいたかったから」
彼は更に練習を積み、2回目のフルマラソンは、初マラソンの自己タイムを一時間も縮めるという快挙を成し遂げる。
「やったらできるねんって思った!やったらやった分だけ結果がでる。これやってええんか?じゃなくて、自分がやりたいって思った事は、自分を信じてやってみるのが大事やと気付いた」
大会が無い期間でも、彼は走る事を止めない。
大会は達成感や自分を試す意味で必要だが、走る事そのものから得るものが多いという。
「走る時、自分の足で前へ進むしかない。後ろ向きには走らんやろ?だから、心も自然と前向きになれる。どんな嫌な事があっても気持ちをリセットできる」
彼はまた、こうも話す。
「過去にどんなに凄い事をしたとしても、過去は過去でしかない。過去の栄光に頼りたくない。誇れるものは今この瞬間の自分だけでいい」
『”初めての事”をやるのは初めてじゃないんです!』
彼は10ヶ月間の充電期間を経て、この秋から未経験の分野であるゲーム製作会社に転職することになった。
「根っこの部分にずっと人のワクワクや楽しみに携わりたいってのがあった。人の喜ぶ顔を見た時が俺、めちゃめちゃ嬉しいねん!だから、もともと好きだったゲーム業界で働いてみたいと思った」
しかし就職活動は決して平坦な道のりではなかったという。
「就職活動の時は、過去の自分の実績をアピールしなきゃいけない。過去の栄光に頼りたくない自分としては、その矛盾がしんどかった」
そして即戦力となる経験者が有利な業界。経験のない彼は、圧倒的に不利な状態だった。
しかし社長との最終面接で彼の真っ直ぐな想いが、その状況を変えた。
「社長にこの業界で経験がない事を厳しく問われた時…『”初めての事”をするのは初めてじゃないんです!』って自然と言えた。
今までも、経験のないミュージカルやフルマラソンも挑戦してきたから、それだけは自信があった。
でもそういう考えになれたのは、自分自身と常に向き合う事ができるマラソンの存在が大きい」
そんな彼に、大阪マラソンへの意気込みを聞いてみる
「7月末から月間180キロペースで、本気で走りこんできた。大阪マラソンは、自分の値打ちを確かめる意味での本番やと思ってる。自分との本当の勝負はこっからや!」
人生、常に自分の希望や夢が叶うわけではない。
そんな状況でも自分と常に向き合い、逃げず真っ向勝負する彼は、新たな道を切り開き進むパワーを持っている。たとえそれが舗装されていない道だとしても、彼にとっては止まる理由にはならない。
マラソンでも人生においても彼は、全身でそして心で今この瞬間を走り続ける。
中林 信人(なかばやし のぶと)
高校の同級生が出演した『A COMMON BEAT』1期公演を鑑賞し、舞台でまるで別人のようだった友人を見て衝撃を受け、参加を決める。2、3、4、6、8、10、12期でキャストして参加。うち5回はミュージカルスタッフも務める。
現在は東京地域スタッフや会報誌編集部員の他、合唱部の指揮者として活躍中。
フルマラソンの自己ベストタイムは4時間10分2秒。
趣味は映画鑑賞、絵を描く事、TVゲーム、合唱など。