違いに遭遇することで、少しずつ世界は変わっていく See the difference〜対等な対話はアイコンタクトから〜開催レポート | NPO法人コモンビート
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違いに遭遇することで、少しずつ世界は変わっていく See the difference〜対等な対話はアイコンタクトから〜開催レポート

11/2(水)、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)をテーマに、違いを知り、違いと出会い、違いとつながっていくための「See the difference」の第24回が開催されました!今回のゲストは、手話通訳士で「ダイアログ・イン・サイレンス」のSI(サイレンス・インタープリター)チーフである森本行雄さんです。

今回のSee the differenceでは、手話通訳の方をお呼びして、同時通訳しながらイベントを進行していきました。

ゲストの森本さん。

森本さんが聴覚障がい者と初めて出会ったのは大学生、20歳の時でした。現在では、「聴覚障がい者=手話を使う方もいる」というイメージが一般的になっていますが、当時はそうではなく、森本さんはその方との出会いで初めて「手話」そのものの存在を知ったそうです。手話を教わりながら少しずつその世界にのめり込んでいった森本さんは、大学卒業後はろう学校に7ヶ月、その後に盲学校に10年間勤めることになります。そして34歳の時に手話通訳技能認定試験に合格し、手話通訳士として登録して活動を開始。現在は聴覚障がい者の社会参加に必要な場面での手話通訳に携わっています。

手話通訳として森本さんが楽しんでいることの一つは「どこまで変顔ができるか」だそう!
表情豊かな森本さんの姿に、参加者からは思わず笑顔が溢れていました。

言語としての「手話」

手話を主に使って話す人にとっては、手話がいわゆる第一言語(母語)であり、音声言語としての日本語は第二言語にあたります。ですが、聴覚障がい者全員が手話ができるというわけではありません。それと同じように、聴覚障がい者であっても日本語が堪能な人もいます。森本さんは、大学で手話を話せない方に出会ったことで、聴覚障害の中にある「違い」に驚き、同時にショックを受けたそうです。

※「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」では、「聴覚障害者のコミュニケーション手段をみると、65歳未満では、「補聴器」と「手話・手話通訳」と答えた者の割合が高くそれぞれ25.0%、次いで「筆談・要約筆記」と答えた者が22.9%となっている。65歳以上では、「補聴器」と答えた者の割合が高く20.2%となっている。」(P27 第23表 聴覚障害者、コミュニケーション手段別・障害等級(複数回答)別 (9)聴覚障害者の日常的なコミュニケーション手段) https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/seikatsu_chousa_c_h28.pdf

社会での変化

森本さんが手話を学び始めた頃は、社会ではまだ手話そのものの認知度が低く、手話で話している人は好奇の目で見られることもある時代だったといいます。当時と今を比較できる大学でのエピソードが印象的でした。大学時代、聴覚障がい者の学生が卒業式に出席するため、手話通訳として式に入りたいと要望を伝えたところ、「通訳?外国の方がいるのですか?」と聞かれたそう。言葉が通じない=外国人だ、というイメージが強かったんですね。
一方現在は、聴覚障がい者が場に参加するために必要な環境は、大学側で仕組みを整えるべきだと考えられていたり、実際に手話通訳が入っている場を目にした学生からも「かっこいい」という声が上がることもあるそうです。

アイコンタクトから始まる対話と関係性

森本さんが現在SI(サイレンス・インタープリター)チーフとして携わっている「ダイアログ・イン・サイレンス」は、音のない世界で、言葉の壁を超えた対話を楽しむエンターテイメントです。約90分間、聴覚障がい者のアテンドとともに静けさの中の対話に没入していきます。日本では2017年に初開催され、約15,000人が体験しています。

音のない世界でコミュニケーションの要となるのがアイコンタクトです。私たちが日々、人と接する中で、真正面から目を見合ってコミュニケーションを取っている!と自信を持って言える人は実はそんなに多くないのではないでしょうか。どこか小恥ずかしい気持ちになったり、ついつい逸らしてしまったり。相手との関係性を構築していく上で一番最初のきっかけになるのがアイコンタクトだと思っている、と森本さんは仰っていました。

違いに遭遇することで、意識が変わっていく

手話を学ぶきっかけとなった森本さん自身の原体験や、今の学生たちの言葉、そしてダイアログ・イン・サイレンスでの体験。そこには多くの「違いとの遭遇」があります。違いに出会い、直接触れることで一人ひとりの認識が変わり、その周囲の人たちの認識も少しずつ変わり出す。そんな一つひとつの積み重ねで社会の認識が変わり、少しずつより良い社会に繋がっていくのだと改めて実感した2時間のイベントでした。

映画評論家の淀川長治(よどがわながはる)さんが残した「私はまだかつて嫌いな人に会ったことがない」という言葉。この言葉は、森本さんにとって大切な信条になっているそうです。相手との間にどんな違いがあったとしても、それを頭で考えるのではなく、実際にその違いに「遭遇」し、体験することで相手をリスペクトできると仰っていたのがとても印象的でした。

イベントの最後は、明日から実践したい小さな一歩をシェアする「アクション宣言」!
学んだことを自分の生活にどう活かすか?を考えるのもこのイベントの魅力です。

聴覚障がい者とそれ以外、という線を引いて考えるのではなく、対等な人と人の対話の関係性におけるアクションがたくさん出てきた今回のアクション宣言。参加者がこれからどんな違いに遭遇して何を感じるのか、とても楽しみです。

編集後記

今回は、See the differenceでは初めて手話通訳の方をお呼びしてイベントを進行し、聴覚障がい者も参加された回となりました。イベント冒頭「身体ほぐしのウォーミングアップ」を担当する中で、思った通りに伝えきれないもどかしさも感じた一方、参加している方の笑顔を見てこちらの心が和らぐようなそんな瞬間もありました。オンラインの画面上であっても、言葉を発さなくても、何かが伝わる。森本さんの仰っていた「アイコンタクト」から始まる対話を私自身も体験した2時間となりました。

次回12/22(水)開催のSee the differenceのテーマは、「インクルーシブから始まる生きやすさ」です。ぜひお楽しみに!

インクルージョンチーム
チーム長 上原紗英(ぽす)