「お前はここで暮らしていくんだよ」
「これは太志郎くんのやりたい事ではないんじゃない?
太志郎くんは、地域住民と一緒に汗流したい人でしょ!」
昨年12月、地域活性のコンサル会社に勤めていた北原太志郎さんが、
担当している地域住民のひとりに言われた言葉だった。
ちょうどその頃、プランを作って住民にアドバイスをするという自分の仕事に
『しょせん第三者でしかない』と憤りを感じていたという。
「この言葉をかけられた時、やっぱり自分は地域の中に入って、
地域に根付いた活動がしたいと強く思った。」
彼は長野県下伊那郡松川町で生まれた。
中央アルプスの山々に囲まれた、自然豊かな町だ。
彼が3歳の時、両親と共に東京に引っ越したため、
長い間祖母が1人で守っていた生家をいずれ自分が継ぎたいと思っていたという。
「漠然といつかは帰りたいと思ってだけで特に行動してこなかったけど、
戻るなら今のタイミングだと思った。この時、初めて松川町周辺の仕事を探した。」
そして松川町の隣、飯田市の臨時職員に見事採用。
今年4月から、晴れて彼の生家で、祖母との二人暮らしの生活が始まった。
生家に戻り初めての夜、祖母と一緒に夕食をとっている時、
祖母から「あんたは、ここで暮らしていくんだよ。」と言葉をかけられたという。
「ばあちゃんに言われた時、たとえどんな事があっても、
この地で暮らしていく覚悟ができた。
あれは、ばあちゃんと俺の誓いだった。ばあちゃんとの絆を改めて感じた。」
「立つべき所は決まった。納まる所に納まった安心感がある。
後は地域にどれだけ入り込んでいけるかが鍵だと思っている。」
彼は地域に溶け込むために、地元の若者が所属する消防団に自ら進んで加入したという。
「東京にはすぐ集まれる仲間がいたけど、ここにはまだいない。
正直、寂しさもある。それと同時にここから作っていく楽しみもある。」
越えられない壁はない
そんな彼がコモンビートでプロジェクトリーダーを勤める『もざいくプロジェクト』は、2年目を迎える。
『もざいくプロジェクト』とは、異なる色や形が合わせるモザイク模様のように、
村民と東京の若者が人と人の交じり合いをパフォーマンスで表現するプロジェクトだ。
今年のパートナー地域は、去年に引き続き、長野県阿智村。
昨年は阿智村の一部の地域との交流だったが、今年は阿智村全体を巻き込んでのプロジェクト。
「決して村おこしを目的としてるわけではない。たまたまこのスタイルなだけ。
人と人の繋がりの中から、新しいものを見いだしていきたい。
地方には、東京にない豊かなものがたくさん残っている。
歴史、文化、伝統。これが失われたら、日本が日本でなくなってしまう。
地域活性が必要なのは、東京なのかも知れない。」
もう一方で彼は、飯田市の公務員を目指して目下勉強中だ。
「行政としての視点と地域住民としての視点の両方から、
自分の住んでいる地域を元気にしたい。」
「いつかミュージカル『A COMMON BEAT』飯田公演をしたい!
もちろんキャストも地域住民で!」
「越えられない壁はない。
自分の置かれている状況を100%受け入れられたら、人生は絶対上手くいく。」
彼は早朝、朝日に照らされ緑輝く道を力強く歩き、飯田市の消防団の大会に出かけていった。
どんな状況も受け入れ、一歩一歩前向きに確実に進む彼が、
夢を実現する日はそう遠い未来ではない。
北原 太志郎(きたはら だいしろう)
他団体を介して、ミュージカル『A COMMONBEAT』を知る。体験説明会に参加し、ミュージカルスタッフが熱く取り組む姿勢に惹かれ、5期キャスト参加。6期チーフディレクター、8期プロデュサー、15期演出部スタッフを勤める。
以前から、日本の伝統が受け継がれている『地方』と『人』に強く惹かれ、8月末から始まる『もざいくプロジェクト』の準備にプロジェクトスタッフ共に励んでいる。
好きな言葉『昨日と違う今日を生きる』
好きな漢字『志』