「私の名前は『舞』なのに、全然舞ってないなって思ったんです。」
「ここでよく歌の練習するんです。」
緑の木々に囲まれた橋の上で、両手を伸びやかに広げて中岡舞さんは話す。
彼女はミュージカル『A COMMON BEAT』の18期キャストとして日々練習に励んでいる。
自然をこよなく愛し、以前から自然の近くに住みたいと思い、3ヶ月前に家族と共に自然が色濃く残っている東京郊外の地に移り住んだ。
『自然』と『食』に深い関心を持つ彼女。ミュージカルへの参加動機も実にユニークだ。
「農業研修の時、同期の研修生が、歌ったり踊ったりとても楽しそうに農作業をしていたんです。
それに比べ…私はいつも黙々と作業をしていました。
こどもの頃は、自由に歌ったりしてたのに、いつの間にか、自分に蓋をしていたことに気づきました。
私の名前は『舞』なのに、全然舞ってないなって思ったんです。
畑で歌ったら絶対、野菜だって喜ぶはずなのに。」
表現力を身につけたいと考えた時…彼女の高校の先輩が以前出演していて、公演を鑑賞した事がある、ミュージカル『A COMMON BEAT』を思い出し、参加を決める。
「カラオケで歌う事すら恥ずかしい私にとって、ミュージカルはかなり挑戦でした。
でも、練習を重ねるうちに、表現する事が楽しくなってきました。
森を歩きながら、自然と一体になって歌っている自分がいる。
これは、今までの私には考えられなかった事。
あと、ダンスをする事で、自分の身体としっかり向き合うようになりました。」
私の人生ひとつの物語。
平日は、早朝から正午までパン屋で働き、午後は庭の畑で野菜の世話や近隣住民のコミュニティに参加し、週末は18期で出会った仲間と共に、ミュージカルの練習を通して表現力を磨いている。
慌ただしく見える日々だが、彼女を包む空気と時間はゆったりと流れる。
そこにはブレない信念があった。
「土と共にずっと生活したい。『土』という字は、+(プラス)と-(マイナス)が合わさってできてるように、土に触れているとニュートラル(ゼロ)になれるんです。」
そんな彼女に、将来の夢を尋ねると、
「具体的には、はっきりしたものはないけど、生きるための活動をずっとしていきたいです。」
と真っ直ぐに答える。
日々の生活を送る事自体に、喜びや価値を見いだせる彼女は、特別な夢は必要ないのかも知れない。
「私の人生ひとつの物語。ハプニングがあればあるほど面白くなる。いつ死んでも悔いのない人生だったと思えるように、やりたい事は全てやりたい。今をしっかり生きたいんです。」
自分に人に自然に、そしてあらゆる『生命』に誠実に向き合っている彼女の生活は、地にしっかり足が着いている。
ミュージカル参加も決して非日常を求めたわけではない。
彼女の生活を豊かにするために、必要不可欠だったからだ。
彼女にとって『舞う』ことは、生きる事そのものなのかも知れない。
7月29、30日いよいよ18期は本番を迎える。
本番の舞台で、彼女はどんな『舞い』を見せてくれるのだろうか…。
中岡 舞(なかおか まい)
高校の先輩が出演していたミュージカル『A COMMON BEAT』6期公演を鑑賞したのがきっかけで、現在、18期にキャストとして参加中。
『農業』と『国際協力』に深く関心を持ち
東京農業大学 国際食料情報学部 国際農業開発学科卒
趣味は、土いじり、旅すること、食べること
座右の銘『なるようになる』