自分と向き合うことからはじまる「グローバル・シチズンシップ(地球志民)」 | NPO法人コモンビート

自分と向き合うことからはじまる「グローバル・シチズンシップ(地球志民)」

2025年4月から、一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト(以下、GiFT)の代表理事である辰野まどかさんが、コモンビートの『グローバル・シチズンシップアドバイザー』に就任することになりました。GiFTでは、一人ひとりが持つ『世界をより良くする志(=グローバル・シチズンシップ)』を育て、社会に変容を生み出すことを目指しています。

これまでGiFTとコモンビートはさまざまな形で交流を深めてきました。そして、3月9日(日)に開催されたコモンビートの未来を共に考えるトークイベント「パンゲア・コモビジョン・ギャザリング」では、まどかさんにこれまでのご経歴や活動への想い、表現活動がもたらす平和への可能性についてお話いただきました。今回は、そんな対談の様子をお届けします。

インタビュアー:花宮香織(NPO法人コモンビート)

平和は、願うものではなく、自分でつくるもの

花宮(はな):
まずは今の活動に至るまでのご経歴についてお話を伺います。平和について興味を持ったきっかけはありますか?

まどかさん:
転機は、高校生のときに親に勧められて参加した国際会議でした。世界中から集まった参加者が、平和を構築するために深く対話を重ねる様子に圧倒されて。最後に感想を求められ、「こういう場がずっと続いてほしいと思います」と伝えたら、ある参加者から「『続いてほしい』じゃなくて、あなたがやるのよ!」と怒られて、そこでハッとしたんです。

花宮(はな):
それは私もつい言っちゃいそうです。日本では「平和」について話す機会も少ないですし、どこか他人事になりがちですよね。

まどかさんの人生曲線

まどかさん:
そこから「平和」という漠然としたものと自分との距離が変わったんです。さまざまな活動に参加する中で出会ったのがアメリカのNPO法人「 Up with People」。2000年にはその団体の一員としてボランティアやホームステイをしながら世界各地で、ミュージカル「A COMMON BEAT」を公演して回りました。

花宮(はな):
えっ、大先輩だったんですね!私たち(NPO法人コモンビート)は「A COMMON BEAT」の上演を始めて22年目になりますが、まどかさんはその初代キャストだったなんて。驚きです。

まどかさん:
ミュージカル「A COMMON BEAT」は、Up with Peopleの数ある作品の中でも特別で、ステージ上の全てのキャストが主役として輝く作品です。それまでのショーでは、目立つ人とそうでない人がいたのですが、いわゆるその「ステージポテト(添え物)」をなくそうと制作されたのが、「A COMMON BEAT」だったんです。
Up with Peopleは、その後「A COMMON BEAT」の上演をやめてしまいましたが、コモンビートさんがその精神を引き継いで、今でも上演し続けられていることが本当に嬉しいです。

花宮(はな):
コモンビートのミュージカルの制作現場でも、「キャスト全員が主役」ってよく言うんです。作品の制作当時からその原点があったなんて!

「異文化理解」と「平和」をテーマにする、ミュージカル「A COMMON BEAT」

まどかさん:
だからこそ、コモンビートさんの活動はこれまでもずっと応援してきました。そして、平和に向けた様々なアプローチがある中で、自身としては、「一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)」を立ち上げ、グローバル・シチズンシップ育成(地球志民教育)を通じて、次世代を意識して行動できるようになるための教育を行っています。

海外と日本で違う?「グローバル・シチズンシップ(=地球志民)」とは

花宮(はな):
GiFTさんが掲げる「グローバル・シチズンシップ(=地球志民)」という言葉は日本ではなかなか聞き馴染みのない言葉ですが、どのようなものなのでしょうか。

まどかさん:
「グローバル・シチズンシップ」をGiFTではシンプルに「世界をよりよくする志」と呼んでいます。誰もが持っている、世界をより素敵により良くしていきたい気持ち。その想いも込めて、地球市民ではなく地球「志」民と表現しています。

「グローバル教育」というと、日本では、英語や海外留学などインターナショナルなイメージがありますが、もともとは、地球市民を育てる文脈で使われてます。ユネスコではそれを「一つの惑星で平和に共存すること」と呼んでいます。

GiFTではだからこそ、海外や世界とつながる前にしっかりと地(球)に足をつけて、まず自分の思い、何にワクワクしているのかモヤモヤしているのか、そうした感性や自分の志につながることを大切にしています。

花宮(はな):
なるほど!世界と繋がることからではなく、まず自分自身と深く向き合うところからスタートするんですね!

まどかさん:
GiFTでは、まずは「自分」と深くつながり、相手に共感し、新たな価値を共創し、そして社会に参画・貢献することを行っていきます。この4つのステップに基づいて、一人ひとりの中にあるグローバル・シチズンシップを育成していきます。

GiFT HP(https://j-gift.org/about/global-citizenship-education/)より

「グローバル・シチズンシップ」の入口としての表現活動

花宮(はな):
コモンビートの「100人100日ミュージカル®プログラム」は、「グローバル・シチズンシップ(=地球志民)」のプロセスと近いものがあるかもしれません。自分をさらけ出して表現することは自己理解に繋がり、他のキャストとは深い対話をして互いの違いを認めあう。そうして協力しながら、ミュージカル「A COMMON BEAT」を創る過程で、社会にも向き合っていきます。

まどかさん:
そうやって、互いを尊重できる人や関係性が世の中に増えていけば、平和に繋がりますよね。
また、Up with Peopleで実感したことですが、歌や踊りには、言語や文化の違いをこえて多様な人たちを繋げるチカラがあります。しかも、平和という概念やテーマを頭ではなく「体感」で伝えることができる。それに、特に興味がない人にもメッセージを届けることができるのは、エンターテイメントの強みですよね。コモンビートさんのミュージカルを観に来る方も、もともと「平和」や「異文化理解」に関心がなくたって、舞台を通じてきっとそのメッセージを持ち帰っているはずです。

ミュージカル「A COMMON BEAT」の舞台(2024)

「それでも、止めてきた戦争があるはずだ」と信じること

花宮(はな):
コモンビートは20年以上、ミュージカル「A COMMON BEAT」を通じて平和のメッセージを日本全国に届けてきたわけですが、「それで社会は平和になったのか」と問われれば、そうではないのが現実です。このような活動って、ただの「キレイゴト」として捉えられてしまうこともあるのですが、同じような葛藤をまどかさんが感じることはありますか?

まどかさん:
昨今のDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)に逆行する世界情勢もそうですが、特にロシア・ウクライナで戦争が起こってしまったとき、大きなショックを受け、Up with Peopleや平和活動に関わるアルムナイ(同窓生)と、無力感に苛まれました。それでも今は、「こうした活動によって止めてきた戦争もあるはずだ」と強く信じています。結果がわかりやすいカタチで現れていなくても、決して無力ではありません。

花宮(はな):
なんて力強い!ミュージカル「A COMMON BEAT」にはもともと「感じてほしい、共通の鼓動」という副題がついています。「どんなに違っていても人はわかりあうことができる」というメッセージ、そして、その繋がりの価値が、Up with Peopleのアラムナイでは強く共有されているんですね。

2024年に8ヶ月のMIT「変革型リーダーシップ・プログラム」に参加。
変容を生み出す場づくりへの理解を深める。

激動の時代だからこそ、深く根ざす活動が必要

花宮(はな):
コモンビートは、その「共通の鼓動」をこれから社会により広く届けていこうと思っています。
最後に、コモンビートに期待すること、そして、一緒にやっていきたいことなどがあれば、教えていただけますか。

まどかさん:
さきほど世界の情勢にも触れましたが、現代はある意味「オモシロイ」と思っています。世の中が激しく変動して価値観も揺さぶられるからこそ、それにリアクト(反応)してただ振り回されるのではなく、「自分が何を感じているか」「多様な仲間とどれだけ繋がっているか」に深く根ざすことが、問われる時代だと思うんです。なので、表現活動を通じてコモンビートさんのされている活動はますます必要とされると思うし、私もアドバイザーとして一緒に何ができるか、コミットしていきたいと考えています!
コモンビートは、ミュージカルはもちろんのこと、メンバーが集まっている場にいるだけでも、エネルギーが満ち溢れています。グローバル・シチズンシップ(世界をより良くする志)を持つ、多様なメンバーとの化学反応から共創される平和に向かうパワー。これからよりご一緒できることにワクワクしています。

花宮(はな):
ありがとうございました!
世界や社会の課題ってなかなか変えられない「遠いもの」に感じてしまいがちですが…自分自身や多様な他者と深く向き合える場を提供し、具体的なアクションをする主体的な人を増やしていくことで、コモンビートとしても貢献できることがあると改めて感じさせていただきました。
グローバル・シチズンシップアドバイザーとして、これからも改めてよろしくお願いします!