人生アンサンブル_14 これも、ハイクオリティなエンターテイメント。役者人生を変える市民ミュージカル

ダイバーシティ&インクルージョンは、わたしとあなたのこと──。コモンビートは、「わたしとあなた」という一人ひとりを起点にして、個性を響き合わせ、多様な価値観を認め合うことを目指しています。主要な活動である100人100日ミュージカルプログラムの参加者が、具体的に何を経験し、学び、そして仕事や人生にどんな変化を起こしているか。「人生アンサンブル」では、参加者の生の声をもとに、コモンビート広報室がお届けしています。

市民がつくるエンターテイメントの価値

コモンビートのミュージカルをDVDで観た時、プロとはまた違う感動があって、思わず泣いてしまったんですよ──。そう語るのは、プロのミュージカル俳優になるために学校で学び、オーディションを受ける日々を過ごす「テレサ」です。彼は、これまでの人生アンサンブルの登場人物と異なり、ミュージカルに対して専門的な目と技術を持ち、さらには大道具など舞台裏まで熟知しています。そんなテレサは、なぜコモンビートの市民ミュージカルに参加したのでしょうか？

「専門学校を卒業した後、ミュージカルを支えるものづくりにも興味がわき、大道具の担当として過ごしていました。そうして4-5年を過ごすうちに、生活のこともあるし、俳優を目指していた気持ちが薄れてきて…。」

このままでは良くないと思っていたとき、たまたまコモンビートのミュージカルをWebで見つけました。プロの役者が立つような舞台に立てる機会を魅力的に感じ、試しに体験会に参加しました。テレサはそこで、「ミュージカル = プロがするもの」という考えを覆されます。その場にいたのは、普段は会社員、教師、保育士、学生として過ごし、歌やダンスを特に学んではこなかったけど、大舞台に立つことを決めた人たちです。しかも、プロの世界では当たり前である「演出家」のような「答え」を持つ絶対的な存在がおらず、市民が学び合いながら舞台をつくっていきます。それは、専門的に学んだ彼から見ても新鮮な驚きであると同時に可能性を感じ、参加を決めました。

歌やダンスだけでない、だからクオリティが高い

当初、テレサは、「歌やダンスを知らない市民が舞台に立つのだから、最初から最後までずっと稽古するのだろう」と想像していました。しかし、その予想は外れ、コモンビートではミュージカルの稽古に加えて、さまざまなワークショップが用意されていました。たとえば、「今自分は何を感じているか」を語り合ってお互いを知る時間、「ミュージカルを通じて、社会に何を伝えたいか」を考える時間など。

テレサは「こうして一体感の礎をつくるのか」と驚き、「このやり方で20年も続け、あのクオリティの舞台をつくっているのか」と納得しました。彼は、ミュージカルを専門的に学んでいた頃は、舞台を通じて何を届けたいのかなどは正直なところ考えていませんでした。また、こうして様々な人とコミュニケーションをとることで、人に対する興味というものが日常生活でも生まれるようになったといいます。

この出会いが、役者としてのキャリアを拡げた

間もなく本番を迎えるテレサに、今の心境を聞いたところ、「わくわくしています。仕事や勉強など、普段は別のことをしている仲間が、これだけ努力した成果を舞台で披露するのを多くの人に観てほしい」と答えてくれました。もちろん不安もあり、「自分が歌うシーンで声が裏返ったらどうしよう」「あれだけの大人数で、場面転換をうまくできるか」と心配はつきません。

でも、どんなに小さなことでもいいので、観客の心を動かしたいと考えていました。テレサ自身が修学旅行でミュージカルに触れ、この道に進むと決めたように、エンターテイメントには人の心を動かす力がある。コモンビートのミュージカルのストーリーのように、テレサは「関係がうまくいかない人と、仲直りしなくてもいいので、対話を続けるなど、何かきっかけを感じてほしい」と願っています。

テレサは、コモンビートの舞台が終われば、プロのミュージカル俳優を目指して活動を続けていきます。彼は、「ひと味違う俳優になれそう」と教えてくれました。例えば、楽しいシーンにおいては、「楽しく見えるようにする」専門的なスキルを発揮するのが当たり前だったプロの役者とは異なり、「全身全霊で本当に楽しむ」市民ミュージカルでは、伝わるものが違うのも体感し、表現の幅が広がりました。そして、コモンビートの仲間と共に過ごすことで、人に寄り添い、相手に伝わる言葉で話すなど、成長した自分がいることを感じています。将来、「コモンビートがあったから、プロとして磨かれている」と語れるようになると確信しています。