人生アンサンブル_13 「自分から最も遠い世界」へ ーー 物静かな僕が見つけた、新しい視野 | NPO法人コモンビート
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人生アンサンブル_13 「自分から最も遠い世界」へ ーー 物静かな僕が見つけた、新しい視野

ダイバーシティ&インクルージョンは、わたしとあなたのこと──。コモンビートは、「わたしとあなた」という一人ひとりを起点にして、個性を響き合わせ、多様な価値観を認め合うことを目指しています。主要な活動である100人100日ミュージカルプログラムの参加者が、具体的に何を経験し、学び、そして仕事や人生にどんな変化を起こしているか。「人生アンサンブル」では、参加者の生の声をもとに、コモンビート広報室がお届けしています。


自分から最も遠い世界へ

今回ご紹介するのは、大学4年生の「たいち」です。工学部で機械系の研究をしています。小さい頃から手を動かして物を作るのが大好きで、理系の道を進み、社会人でも「物づくりに関わり続ける」と決めています。物静かな人柄の彼は、どちらかというと内気。大所帯で行動したり、体で感情を表現するような活動が自分に合うとは思えず、ミュージカルは「自分から最も遠い世界」と想像していました。

そんな彼が、コモンビートに参加経験のある母親に勧められ、「そこまで言うなら」と体験会に行ってみると‥自分に似たような人を見つけ、「ちょっと場違いかもね」と弱音を共有できました。またあるスタッフからは、「自分も静かな性格で、特別に明るい訳ではないし、歌やダンスも得意ではない。でも参加して、いい方向に自分が変わったから、コモンビートが好き」と言われました。

何かきっかけがないと「こういう場に関わることがない」と思い直し、たいちは参加を決めます。でも、これまでの人生で、全く知らない大勢の人たちと何かを一緒にする経験がなかったので、最初の頃は気疲れしていました。そんな彼は今、「自分と似て静かな人に、こういう機会もあるよ」と伝えたいそうです。なぜなら、だんだんと場に溶け込み、仲間を尊敬し、視野が広がり、本番が楽しみだから。彼の体験、思いを深く見ていきましょう。

大学での様子

違いを響き合わせると、同じところが見える

たいちは、ミュージカルというと、演出家の叱責や、厳しい練習を想像していました。ところが、初心者がいるからなのか、運営スタッフも経験者も「誰もが楽しめる空間」を作っていました。また、自分と同じ大学生、目が見えない人、車椅子の人、様々な職業や人生経験をした人と、多様な仲間を知り、ひとりひとりと話すことで、「いろいろな人生がある」と実感しました。それが分かると同時に、自分はこの活動や周りの仲間の雰囲気から浮いてしまうかも、という不安は減っていきました。

参加動機も、表現活動の経験も、この活動にかけるテンションも、人それぞれ。でも、この場にいて共通していることがあります。それは、シンプルですが「100日後に共に舞台に立つ」そしてそのために「頑張っている」ということです。ダンスを覚えるのが得意、歌の音程をつかみやすい、そういう人もいれば逆の人もいる。そんな仲間たちと練習を続ける内に、「その人なりの方法で頑張ってることはみんな同じ」と気づきます。

そして、頑張っている人に対しては、周囲にいる仲間が歓声や手拍子を送ります。たいちは、「応援されている、そういう安心感があるんですよね」と嬉しそうに話していました。いつしか、自分を周りに無理やり合わせなくても、自分らしく頑張ればいいんだ、と心が楽になっていきました。普段とは違う環境に飛び込んだからこそ、みんなと身体を動かす一体感や自分を隠さず素のままを表す、ということの良さに気づけたと、たいちは嬉しくなりました。

頑張る仲間を尊敬している

本番の舞台で、たいちは朗読をします。言葉だけで表現する難しさ、変えのきかない配役、多くの仲間が希望した役割。当然ながら緊張しますが、頑張っているみんなに応えたいから、彼は「選ばれたことに報いたい」と目に力を込めました。越えるべき壁はあるけど、一人じゃない。とっても大変だけど、その努力が適度に心地いい。たいちの声を聴いていて、そんな雰囲気を感じました。

これまでの体験を通して、たいちは価値観が変わり、視野が広がったと感じています。参加を躊躇し、最初は戸惑っていましたが、今はやって良かったと言い切ります。価値観の変化について質問したところ、「日常生活で、自分と違う人に出会うことは多いと思います。その違うということに対して、『違う世界の人』と思考を停止しないで、自分と同じように悩み、努力し頑張っている、と捉える。その人のあり方で頑張っていることを認め合える社会になってほしい」という返事でした。

本番に向けて、今の心境を聞きました。「なんて言うか、自分は根本的に自信が持てない。目標に向かって努力して実力をつけても、さらに上の人や、もっと頑張っている人がいる」と意外な答えが返ってきました。でも、ここで終わりませんでした。「だから尊敬する」とのことです。「本番では、自分だけでなく、仲間を多くの人に見て欲しい」と続けます。「もともと自分自身が思っていたように、このような活動は縁遠いものではなく、『自分も何かやれるかも』と、感じてもらえたら嬉しいです。」


たいちをはじめとした個性豊かなキャストのメッセージを舞台で受け取りにきてください!8月の東京公演でお待ちしています!

■ミュージカル「A COMMON BEAT」第57期東京公演

日程:2023年8月19日(土)・20日(日)
会場:北とぴあ さくらホール
詳細:https://musical-acb.com/
観劇サポート(音声ガイド・字幕)あり