障がいのある◯◯さん、ではなく一人の仲間として See the difference〜「わたし見えにくいんだ」とサラリと言えるようになったわけ〜開催レポート | NPO法人コモンビート
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障がいのある◯◯さん、ではなく一人の仲間として See the difference〜「わたし見えにくいんだ」とサラリと言えるようになったわけ〜開催レポート

2/8(水)、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)をテーマに、違いを知り、違いと出会い、違いとつながっていくための「See the difference」の第28回が開催されました!今回のゲストは、コモンビートのプログラムにも多数参加している森田 基子さん(以下、Teddyさん)です。

笑顔が素敵なTeddyさん。いつも明るいTeddyさんのパワーに元気をもらっています!

Teddyさんは生まれつきの弱視で、左目の視力は0で全く見えておらず、右目は0.03から0.04だそうです。視覚障がい者はみな「全く見えない人」だと思われがちですが、全盲の人もいれば、弱視の人もいます。特に弱視者の見え方は人それぞれであり、一人ひとりの目の状態に応じて、日々の生活の中で困ることも異なっているとTeddyさんは伝えてくれました。

言わない、言えない、言いたくない。

冒頭から、ご自身の目の状態や生活についてオープンに話してくれたTeddyさん。しかし、昔は自分の目が見えにくいことを周りに伝えられなかったそうです。「言わない、言えない、言いたくない。」今のTeddyさんからは想像しにくい言葉の並びでした。そして、そう思うきっかけとなった出来事を教えてくれました。

17、18歳頃のことでした。外出する時には地図を頭に入れて出かけていたTeddyさんですが、建物が多く立ち並び情報量も多い外では行き先を見つけるのも容易ではありません。そこで、近くに歩いていた人に行きたい場所を聞いたところ、その人はTeddyさんの顔をじーっと見つめて一言、「字が読めないんですか?」そう言いました。実は、目的地のすぐ近くまできていたTeddyさん。近くにあるのに、見つけられない=文字を読めない?、そう判断したのでしょうか。その人の言葉に、深くショックを受けたそうです。「ここですよ」、そう伝えればいいだけなのに、どうして。人に伝えて自分が傷つくくらいなら、言わない方がいい。それからTeddyさんは人に頼れない分、どのように工夫すれば生活しやすいかを自分でたくさん考えて、実践してきました。

車の代わりに「馬」、買っちゃいました!

アクティブで色々な活動に参加している印象のあるTeddyさんに、趣味を聞いたところ、驚きの回答が…!そしてそこにもTeddyさんの工夫がたくさんありました。洋画やジャズ好きのご両親の影響で音楽や舞台に触れる機会が多くあり、漫画をきっかけに宝塚に夢中になって青春時代を捧げたTeddyさん。20代でハマったものは「乗馬」。視覚に障がいのある自分が車に乗ることは難しくても、馬には目がある。馬と自分に信頼関係が築けていれば大丈夫だ、と馬と共に走り続け、障がい者向けの大会ではない一般大会に出場して、入賞したこともあるそうです(すごい!)。 吹雪の中スキーをしたり、海外に行ったり。直感にビビッときたことを大切にしながら、やりたいことは、どのように工夫すればできるかをまず考えるマインドができあがっていったと笑顔で教えてくれました。そしてそこには、いつ目が見えなくなるか分からないから、見える時、体験できる時に色々なものに触れたいというTeddyさんの想いがありました。

障がい者ではなく、一人の仲間として

2019年にコモンビートのミュージカルプログラムに参加したTeddyさん。そこでの出会いと経験の中で印象的だった出来事を聞いてみました。

宝塚が大好きで、舞台への憧れがあったTeddyさんですが、舞台に「立つ」ことにおいては、視覚障がいがあることが大きなバリアとなります。最初にコモンビートの活動に誘われた時も、どうせ参加は難しいんだろうな…と後ろ向きな気持ちもあったと言います。そんな中、その日初めて会ったスタッフに「絶対大丈夫!一緒に工夫すればきっとできるから一緒にやろう!」と力強く声をかけられたことにとても驚きながらも、その楽しさに参加を決意しました。

分かち合うことで、お互いに心地よく過ごせる

プログラムに参加する中で、Teddyさんはこれまでとは少し違った感覚になったと言います。それは、「一緒に考えよう、一緒に工夫しよう!」というキャスト(参加者)たちの姿がきっかけでした。障がい者を助ける健常者という関係性ではなく、一人の仲間として、困っていたら協力し合う。一つひとつは小さな声かけかもしれませんが、そんな些細なやり取りがTeddyさんにとってはとても大きなものだったと言います。場に対して安心感を持って過ごせるようになったTeddyさんは、今度は自分がどのようにしたら他のキャストたちに同じように安心感を持ってもらえるか?と考えるようになりました。そこでTeddyさんは、100人の仲間たちの前で目の状態や普段の生活での過ごし方について詳しく話したそうです。

自分の障がいのことを言いたくない、言わない、だから自分で工夫しよう、そう過ごしてきたTeddyさん。色々な個性の人が一緒に過ごす環境で、お互いの得意も苦手も分かち合うことで心地よく過ごせるようになった体験は、大きな分岐点となりました。

ミュージカル本番公演での1枚。

コモンビートで過ごす中でお互いにオープンでいることの心地良さを知った一方で、周囲とのコミュニケーションで生まれる違和感にも気付いたそうです。それは、何か出来なかったり苦手なことがあったりした時に、それらが全て「目が見えにくいこと」を理由にされてしまうということ。確かに視覚に障がいがあることで大変なこともあるけれど、得意不得意は誰にでもある。ただそれだけなのになと思いつつも、それを相手に伝えるのもまた面倒だな、と思ってしまう時もあると素直な気持ちを伝えてくれました。

人はそれぞれ沢山の個性を持っています。障がいのある方と出会った時に、障がいのある「◯◯さん」ではなく、1人の人としてまずはフラットに相手と接してみようと思える、そんな入り口にこのイベントがなったらいいなとTeddyさんは語ります。

最後には、一人ひとりが明日からのアクションを宣言!この日の参加者からは、
「オープンに、フラットに」「ポジティブに、自然に」と言った言葉が多く出ていました。 Teddyさんがオープンに、そしてまっすぐ明るく伝えてくれたからこそ、参加者にもその想いが伝播しているのだと感じました。

コモンビートでは、団体設立20周年を迎える2023年から、ミュージカルへのアクセシビリティを高めるさまざまな取り組みを、「Musical For All––あらゆるひとに参加と鑑賞の機会を」としてスタートします。
一人ひとりの個性や「できる」「できない」をもっと気軽に分かち合う。ミュージカルを通じて、そんな場をつくっていくための、ヒントもいただきました。
ゲストのTeddyさん、参加者のみなさん、ありがとうございました!

次回4/19(水)のSee the differenceは、映画・映像に対してバリアフリー字幕や音声ガイドの制作をされている、Palabra株式会社 代表 山上 庄子さんをゲストにお招きします。「エンタメをみんなで一緒に楽しむには?」というテーマになりますので、ぜひお楽しみに!

See the difference
インクルージョンチーム
上原紗英 (ぽす)