“認知症“像 をつくりなおす See the difference〜認知症の方が生きている世界を覗いてみよう〜開催レポート | NPO法人コモンビート
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“認知症“像 をつくりなおす See the difference〜認知症の方が生きている世界を覗いてみよう〜開催レポート

10月5日(水)、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)をテーマに、違いを知り、違いと出会い、違いとつながっていくための「See the difference」の第22回が開催されました!今回のゲストは、書籍「認知症世界の歩き方」の制作に携われた、特定非営利活動法人イシュープラスデザイン スタッフの青木佑さんです。

左上がゲストの青木さん

イシュープラスデザインさんの取り扱うイシューは、多岐に渡ります。青木さんはもともと福祉業界にいらっしゃったそうですが、「福祉って大切なことなのに、なんかちょっと“遠いもの”だったりする。その現場にいる人や関わっている人は楽しくやってるのに、周りからはなんか特別な人って思われちゃう。」ともどかしさを抱えていたそうです。それをデザインの力でどうにかできないか、という想いが、イシュープラスデザインさんに参画した背景にあったといいます。

「認知症世界の歩き方」の制作背景

「認知症に対するイメージって?」そんな青木さんからの問いかけに、参加者からは以下のようなチャットが返ってきました。

ー記憶に残りづらくなる
ーコミュニケーションが難しい
ー違う人に間違えられる
ー物忘れが多くなる
ー表情がなくなる

実は「認知症」とは状態のことで、特定の病気の名前ではありません。認知機能のトラブルが日常生活に支障をきたすような、病気から起こるあらゆる症状のことを指します。日本では85歳以上の方の半数以上がなるという、身近なようでいて、実はよく知らない認知症。この本の制作にあたっては、ある当事者の方から教えてもらったこんなエピソードがありました。

ー汚れている帽子を脱がない方がいました。どんなに脱ぐように言っても絶対に脱ごうとしないのでご家族や周りの人も困っていましたが、脱がない理由をよくよく聞いて聞いてみると「頭を守るためだ」と。その方はレビー小体型認知症で、頭の上に危険な物が落ちてくるように感じていたのです。そんな風に、家族であっても本人のしている行動の背景を理解できずに、「なんでそんなことにこだわるの?」と困ってしまうことが多いんです。
認知症の方と共に生きていくために、本人の見ている景色を周りはどう理解したらいいのか。「認知症世界の歩き方」は、そんな問いから生まれました。

「認知症の世界」を一緒に旅してみよう

では実際に認知症の方の体験をストーリーにした「認知症世界」を覗いてみようということで、青木さんはそこから映像を使い、認知症世界へ案内してくださいました!

乗り込むと記憶をどんどん失ってしまい、行き先がわからなくなるという不思議なミステリーバス

深い霧と吹雪が、視界とともにその記憶まで真っ白に消し去ってしまう、ホワイトアウト渓谷

顔が千変万化するため、人を顔では識別しない、顔無し族の村

 

これは「認知症世界」の一部です。この世界を作り上げているのは、いわゆる物忘れとは違う「記憶障害」や、家族の顔の識別も難しくなるという脳の認知機能障害、そして、感覚器のコントロール不全など‥。
まるでSFやフィクションの中みたい、と参加者からも驚きの声が上がりました。ただ気をつけないといけないのは、これが「認知症の方の全てに起こっていることではない」ということです。認知症の症状は人それぞれ。時間感覚のトラブルだけの人もいたり、何がその人にとって苦手であり、難しいことなのかは、全員違います。「認知症」と一括りにせず、あくまで「その人が見ている世界」として捉えて欲しいと、青木さんはメッセージをくださいました。

暮らしのデザイン

その後は、実際に私たちの身の回りに溢れている風景をみんなで見直すタイム!

・壁から便器にトイレットペーパーに水洗ボタンまで全ての色が統一されたかっこいいトイレは、見分けがつかなくて使いづらかったり‥
・一面が鏡張りになった通路は、壁と床の境目が見失われて歩くのが怖かったり‥
・水と石鹸と温風が出るデパートの洗面台は、奥行きや空間把握に難しさがある人にとっては操作方法や手の出し位置の調整が難しかったり‥

このようなどこかでよく見かけるような街中のデザインも、認知症や認知機能に障がいがある方にとっては、バリアになりえます。それは、障害というものは本人が克服すべき個人の課題ではなく、社会にある障壁と捉える「障害の社会モデル」という考え方にも通じます。

障がい者像をつくりなおしていく

イベントの最後には、青木さんへの質疑応答と参加者のアクション宣言!

・認知症の方にどう接して良いかわからずどこか遠慮してしまっていた自分の態度を変えていきたい
・認知症の人は施設や家に引きこもってるイメージだったけど、若い方や症状が軽い方は外出することもあると聞いて驚いた。自分が気づいていないだけで周りにもいたのかもしれない。
・「認知症の人」ではなく「〇〇の症状がある人」というように捉え直したい
・別の人の立場で眺めると、同じものでも全然違うように見える。街中のいろんなデザインをいろんな人の立場で眺めてみたい
など、様々な声が上がりました。

青木さんはじめ、イシュープラスデザインさんは、認知症にまつわる問題だけを解決したいわけではない、と言います。いろんな人が生きやすくなるためのアプローチの一つが認知症だった、と。たとえ感覚器や認知機能の障害はなくても、子どもと大人、上司と部下、私とあなた、「一人一人が見ている世界」はそれぞれ異なります。自分に見えている世界を絶対視してそれを基準にするのではなく、「相手にはどのように見えているのだろう?」と他者の靴を履いてみる姿勢が、様々な違いを持つ人と共に生きていくには必要です。「認知症世界の歩き方」は、そんな他の人の見ている世界をポジティブに覗いてみるきっかけを与えてくれます。

「認知症の辛さや大変さだけを伝えたいのではなく‥、まずは、こんな風なんだって興味を持って、面白いなと感じてもらえたらいいですね」そう語ってくれた青木さん。コモンビートでも、「違い」は恐るものではなく豊さである、そんな風に感じられる違いとの出会いの機会をこれからも作っていきたいと思います。