ダイバーシティ&インクルージョンは、わたしとあなたのこと──。コモンビートは、「わたしとあなた」という一人ひとりの物語を起点に、個性が響きあい、多様な価値観を認めあえる社会を目指して活動しています。そんな活動のなかにミュージカルがあり、こちらの「人生アドリブ、アンサンブル」では、参加者がどういう思いで関わり、日常生活にどんな変化が起こっているのか、すてきな「違い」をお届けします。
先生なのに、ダイバーシティ&インクルージョンをできている?
今回の主役は、小学校教諭の「いっちゃん」です。日々、子どもたちに大切なことを教えるなかでコロナ禍が起こりました…。動揺があり、価値観が揺らぐ今、ふと10年前のことが頭に浮かんだそうです。それは、コモンビートのミュージカルを観たことです。舞台に立つ人たちが、演技で表情を作っているのではなく、心から幸せを感じてステージに立っていることが客席まで伝わるものでした。
「どんなプロセスを経て、みんなあの表情にたどり着いたのだろうか」「自分もあの場に立ってみたい」と、いっちゃんは思いました。そこには、子どもたちに向き合う先生として、「本当にダイバーシティ&インクルージョンを実践できている?」「自分自身はどうなんだ?」ともやもやしたものを拭いたい、という思いもあったようです。
ミュージカルの素人、だから貢献できる、認められる
しかし、いっちゃんはミュージカルの素人…。もうこれは、「一生懸命に練習するしかない!」と思いました。そして、作品への思いや、一緒に練習する仲間に思うことを素直に、そして丁寧に表現することにこだわりました。それは、「こんな自分でも大丈夫だろうか」「迷惑になっていないだろうか」という不安の裏返しだったかもしれません。
すると、どうでしょうか。そこには、「いっちゃんの一生懸命な様子や、取り組む態度に刺激をもらえる」「いっちゃんがいると、場に安心感が生まれる」と、伝えてくれた仲間がいました。ミュージカルは素人でも一生懸命にはなれる──。、そこには、いっちゃんの個性が確かにあり、「わたしとあなた」という形で認める仲間がいました。
えっ!これもミュージカルの練習なの?
さて、いっちゃんは、どういうプロセスでミュージカルができるようになっていったのでしょうか?そこには、驚きがたくさん詰まっていたようです。「声を出す」「体を動かす」という練習は当然ありましたが、それ以外の練習もたくさんありました。
たとえば、「自分はどんな人物を演じるのか」「その人物は、作品のなかでどんな変容をとげていくのか」を仲間と話し合うこと。いっちゃんの場合は、作品の中で演じる役を通じて、「自分自身は、どんな人間でありたいのか」「どんな人生を歩んでいきたいのか」という願いを投影していることが分かったそうです。それは、自分を見つめるきっかけでした。
冒頭で触れたように、私たちコモンビートは、「個性が響きあって、多様な価値観を認めあえる社会」を目指しています。そのためには、自分の内面にぐっと深く向き合うことが大切になります。だから、いっちゃんが経験した仲間との対話も、立派なミュージカルの練習なのです。
コモンビートで変わった、これからのわたし
いっちゃんは、学校の先生。子どもたちにとって、「こうしてみたら」「あれが必要かもね」と導く存在です。しかし、ミュージカルでは素人だから、わからないことだらけ…。全員が初対面だし、最初の頃は、「できない」「分からない」「助けてほしい」「教えてほしい」と意思表示することに抵抗がありました。でも勇気を出して「困っているので、力を貸してほしい」と伝えると、「いっちゃんだったら、こうしたらいいかも」と受け入れられ、困りごとを乗り越えられました。
この“Help!”の力は、ミュージカル以外の日常生活でも生きているようです。完全な人はいないし、お互いの視点が組み合わさるから、面白いことが起こる。いっちゃんは、コモンビートのミュージカルに参加することで、誰かに助けを求め、すてきな一歩を踏み出す心地よさを知ったようです。
できること、できないことは人それぞれです。いっちゃんは、コモンビートのビジョンに書かれている「自分という個性に、心から満たされて生きる」という言葉にとても共感しているそうです。“Help!”と言える先生って、すてきですね。いっちゃんと子どもたちの間にも、きっと豊かなアンサンブルが奏でられるのだと思います。