「地元の人の明るさは、辛い事を乗り越えた上にあるもの」
「夜中にこの道を、大きな荷物持って何度も歩いたなぁ」
新宿中央公園へと続く道を歩きながら田中江里華さんは懐かしそうに話す。
彼女は2011年コモンビートteam311プロジェクトスタッフだった。
新宿中央公園は、team311プロジェクトの一環として、2011年5月から8週連続で宮城県石巻市へのボランティアバスが出発した場所である。
東日本大震災から一年。
彼女は当時の想いを語り始める。
「製菓材料メーカーに勤めている私は、3月11日は会社でお菓子の試作をしていた。命の危険を感じて外に逃げたけど、気づくと右手には貴重品ではなくホイッパーを握りしめた状態で、まさにパニックだった。
震災から3週間後、友達が被災地にボランティアに行ったのを、『すごいなぁ』って見ているだけだった。私は自分の日常生活を送る事で精一杯だった」
震災後、コモンビートではteam311プロジェクトが立ち上がり、被災地へのメッセージなどを集めていた。コモンビートの仲間達の中には石巻で被災地支援を行っているNGOピースボートを通じて1週間単位のボランティアに参加した人が数人いた。ゴールデンウィークを過ぎて被災地へのボランティアが激減したことを受け、コモンビートのteam311プロジェクトの一環として、なるべく多くの人が参加できるように、8週末連続で石巻への往復バスを無料で出し、ボランティアを現地へ送ろう(受け入れ先はピースボート)という企画が持ち上がった。
「この8週連続の企画を知って、週末を利用して行くから自分も参加できると思った。被災地に行く事について不安や恐れは強かったけど…とにかく『行かなきゃ!』と思い、即参加を決めた。
実際に第1陣のバスで現地に行って、悲惨な状況を見て胃が痛くなる思いだった。笑う事も不謹慎だって思った」
その後も8週連続ボランティアの期間中、彼女は何度もボランティアに参加する。
「最初は、ヘドロが残った工場の清掃などで、地元の人と話をする機会はなかったんだけど…、その作業が一段落して、住宅の前で側溝の清掃をする作業になり、少しずつ話す機会が増えていった。地元の年配女性にねぎらいの言葉をかけてもらった時、『皆で作業すれば楽しいから大丈夫です』と深く考えずに言ってしまったら、その女性の表情が引きつったのを感じた。『楽しい』という言葉に、違和感を感じたのだと思う。街は少しずつきれいになっていってるけど…地元の人の心は、まだまだナイーブになっている事をこの時、身を持って感じた」
ボランティアバス第6陣の頃になると、街の復興が目に見えて進んでいったという。地元の人から差し入れを頂く事もあり、交流も少しずつ増えていく。しかし彼女は地元の人が実際どう思っているか、内心の部分が分からずもどかしい想いを抱えていた。
「そんな時、地元の30代のある女性に『ありがとう。ボランティアの皆さんには本当に感謝しているんです』と声をかけてもらい、本当に嬉しかった。自分達の活動が受け入れられたみたいで。その時色々な感情が溢れて涙が出てきて…それをきっかけにその人と意気投合して、メールアドレスを交換し、個人的なやりとりが始まった」
最初は、被災地で笑う事が不謹慎と感じていた彼女に、地元の人に笑顔で接していいと思い始めたのはどんな時だったかという質問をしてみる。
「地元の人との交流が増え、向こうの方が私達と笑顔で接してくれるようになってからかな。でも地元の人の明るさは、辛い事を乗り越えた上にあるもの。それを私達は絶対忘れちゃいけない」
「会いたい人がいるから会いに行く」
7月にteam311プロジェクトの8週連続ボランティア企画は無事終了したが、彼女は「この活動は続けなきゃ」と強く思ったという。
その後もteam311のボランティア活動は12陣まで続く。
「8陣までは、ボランティアバスでのリーダーをやったりしていた。
9陣が終わった後、自分の中の色々なタイミングが合って、やるなら『今しかない!』と決心して、team311プロジェクトのリーダーを申し出た」
彼女の眼差しから、意志の強さが感じられた。
「私がリーダーになってから、今後の活動を進めるために地元の人が今どんな気持ちでいるか、何を望んでいるのかをメンバーと一緒に調査に行った」
その時、team311の活動を当初から応援してくれていた地元の人と話す機会を得たという。
「その人が『ボランティアに対して感謝の気持ちはすごく持っているけど…ボランティアは個々の自己成長のためにやっているのか?どうしてそれを石巻でやるのか?と思う時もある』という話をしてくれた。この時初めて、地元の人の『ありがとう』じゃないだけの気持ちを知った」
そんな地元の人の想いを受け止めつつも、彼女は変わらず自然体で地元の人と接し続ける。
「10月に、女川町で毎年やっているさんま収穫祭を今回もやりたいから手伝ってほしいと声をかけてもらった。地元の人が内々で楽しむお祭りだから、パフォーマンスのニーズがあったわけではない。地元の人の気持ちを大切にするのは必要!でもプロジェクトリーダーとして、思い切って行動しなきゃいけないこともあるって感じた。
待っているだけでは、そのタイミングは来ない!さんま収穫祭でパフォーマンスをやりたいとボランティアコーディネーターに申し出て、パフォーマンスさせてもらえる事になった」
そのタイミングは、被災地に通い詰めた者しか分からないタイミングだったのだろう。
「さんま収穫祭(11陣)でやったのは、歌や踊りを組み込んだパフォーマンスだった。最後は会場の人と一緒になって盛り上がった。地元の人から『その場の空気が一瞬で変わった』と言ってもらえた。歌や踊りは人を元気にするって改めて実感できたし、地元の人とパフォーマーとが一体となって、あの時あの場所でしかできないパフォーマンスだった。
やっぱり人ありきだって思う」
第1~12陣まで続いたteam311の活動はここで一度、一区切りとなった。
彼女にこれからの想いを聞いてみる。
「私のプロジェクトリーダーとしての役割は終わったけど…
今でも個人的につながりを持った方には手紙を出したりと、交流を続けている。美味しいものがあるから一緒に食べに行きましょうとか、桜が咲いたら見に行きますとか、私にとって石巻は特別なんだけど身近な場所。会いたい人がいるから行く。これからもずっと自分は自分らしくつながっていきたい」
そんな彼女の人生の目標は、『真っ直ぐに生きる』だ。
その想いが彼女の根底にあり、全ての行動の源になっている。真っ直ぐな気持ちが人の心さえも動かし、今後もずっと新たなつながりを生み出し続けていく。
彼女は自分を信じ、今日も真っ直ぐに生きる。
田中 江里華(たなか えりか))
会社の先輩に誘われ、ミュージカル『A COMMON BEAT』体験会に参加し、10期プログラムにキャストとして参加。
その後も12期キャスト兼スタッフ、15期は演出部スタッフとして活躍。
2011年5月からteam311プロジェクトに参加し、のちにプロジェクトリーダーを務めた。
現在は、コモンビート東京地域スタッフ2011として活躍中。
製菓材料メーカー勤務。
趣味はダンス、お菓子作り、旅、写真など。