「気持ちはちゃんと受け継いでいる」髙橋 政臣 | NPO法人コモンビート
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「気持ちはちゃんと受け継いでいる」髙橋 政臣

「気持ちはちゃんと受け継いでいる」髙橋 政臣

「ここはいい意味であいまい」

横浜市鶴見区の商店街に、歴史を感じさせるどっしりとした門構えの銭湯『清水湯』がある。
髙橋政臣さんは去年、三代目として清水湯を継いだ。清水湯は彼の祖父が始め、創業約60年となる。
「いつかは継ごうと思っていたけど、自分の中でその時期ははっきりしていなかった。
ちょうど結婚を迷っていた時…親父から『そろそろ銭湯を辞めたい』と連絡があって。
まだ継ぐイメージがついてなかったけど、とりあえず実家に帰ろうと思った」


「銭湯を継ぐことで、自由じゃなくなるという怖さもあった。
心のどこかで責任をとりたくないってのもあったかも知れない。
でも親父の想いを聞いて、継がない理由がないって思った。引き継ぐタイミングだと感じた」
彼は去年の10月から少しずつ父から銭湯を引き継ぎ、今年3月から本格的に経営を任される。
今年、長年付き合っていた彼女と結婚し、夫婦で清水湯を切り盛りしている。
「清水湯は、親父の代から働いてもらっている10~30年来のパートさんのおかげで成り立っている。
自分が継いだ時も喜んでくれて、今もずっと働いてくれている。本当にありがたい。
地域の人や商店街のつながりに支えられている。
都会の関係は何をするにもお金がかかるけど…ここはいい意味であいまい」
お金には変えられない”人情”がここには確かに存在している。
「気持ちはちゃんと受け継いでいる」髙橋 政臣

「銭湯だけでは完結していない」

銭湯を継いだ後、彼は隣接する自宅でシェアハウスを始め、オーナーを務める。
昔、清水湯には女中(じょちゅう)が住み込みで働いていたというなごりから、自宅の部屋数が多いところを生かしているという。現在5人の住人がいてにぎやかに生活している。
彼自身もシェアハウスで暮らした経験があるため、その魅力は知りつくしている。
「住む所は、人にとって拠点。その拠点から手助けするのは、一番その人を応援しやすい。
シェアハウスは一つのコミュニティ。同じ釜の飯を食う仲間。
そこからまた新たな出会いが生まれてチャンスが広がる。
同じ『コミュニティ』という部分では、シェアハウスと銭湯はつながってる」
彼の自由な発想力は尽きることはない。
銭湯についても、彼ならではの言葉でこれからの構想をゆっくりと落ち着いた声で語る。
「銭湯は、もともと寺が檀家のためにお風呂を無料提供したのが始まりと言われている。お金をとって商売として成り立ったのは、江戸時代から。各家庭に風呂がある今の時代、お金を払って風呂に入ってもらう時代はもう終わっているように感じる。もっと銭湯には違う役割があるんじゃないかと思っている。
例えば…銭湯の脱衣スペースを地域の子ども向けの団体に貸し出してイベントをしたり。使い方はその団体の自由。それに入浴券を付けて銭湯も体験してもらうとか…。
いつか、銭湯自体は無料提供できたらいいと思っている。
今の若者は銭湯に馴染みがないけど、『何かイベントがあったら銭湯に行きたい』って言う人は多い。生活の中にうまく銭湯が入り込めるように、そのきっかけづくりになればいいと思う。
自分の目指しているものは、銭湯だけでは完結していない」
しかし銭湯の経営方針では父と衝突する事もあるという。
「親父には親父の考えがあるけど、これからの事を考えるのは自分。
でも、豪快で人情に熱いおじいちゃんが銭湯を始めて、継いだのが堅実派の親父だったからこそ、清水湯は続いている。そして自分が引き継いだ。よく、自分は何を受け継いだのか考えるんだけど…おじいちゃん、親父の気持ちはちゃんと受け継いでいる。あとは、たとえプラスじゃなくても、おじいちゃんや親父がやり残した事もすべて自分が引き継いだと思っている」
衝突するのは、お互いの事を思いやる気持ち強いからこそだろう。
彼の中には確実に、祖父と父から受け継いだ銭湯スピリットが流れている。
たとえカタチは変わっても、時を超えた親子三代の銭湯スピリットは、今日も『清水湯』の根っこの部分をしっかり支えている。

髙橋政臣さん

髙橋 政臣(たかはし まさおみ)

ミュージカル『A COMMON BEAT』2期にキャストとして初参加。その後も3期キャスト、5期キャスト兼スタッフ、6期スタッフとして参加。最近では、もざいくプロジェクト2011スタッフとして活躍した。
神奈川県横浜市鶴見区の銭湯『清水湯』三代目。隣接する自宅ではシェアハウスも経営している。
趣味は武術。