すぐに伝わらなくて当たり前
「枝豆が成長して大豆になるなんて、『農』にふれるまで全然知らんかった!」
高台の畑で、太陽の光を一身に浴びて伸びやかに育つ大豆の苗木を眺めながら、19期プログラム『農Musical 農Life』(関西)のプロデューサーである神谷宗孝さんは、大豆と同じくらい太陽の光を浴び、真っ黒に日焼けした顔で熱っぽく語り始めた。
彼は『農Musical 農Life』の発起人でもある。
『ミュージカル』と『農』は一見、何の繋がりも持たないように思えるのだが…。
「3年前、『A COMMON BEAT』の9期プログラムに初参加した時、別の団体で大豆を育てるプロジェクトにも、軽い気持ちで参加した。ミュージカルの練習や仕事が忙しくなって大豆畑にしばらく行けず、
9期公演の本番が終わってから久しぶりに畑に行ったら、大豆がめっちゃ大きく立派に育っててビックリ!!
苗を植えた時はあんなに小さかったのに…。そこに命の輝きみたいなんが見えた気がして、俺らも見えないところでこれくらい育ったんかなって思った。100日間って命が育つのに充分な時間なんやと強く感じた」
「自分自身コモンビートのミュージカルプログラムに参加して、せっかく100人で100日間過ごすんやから、もっと大人として成長したい!っと考えた時、『農』にふれることは最適やと感じた。畑で育まれた命が〝食卓″という舞台にあがる。そして自分たちが成長しながら〝ミュージカル″という舞台を創りあげる。この2つの舞台ができあがるまでの過程を五感を使って体験する!コモンビートの舞台に立った100日目が、自分達の人生にとってさらなるスタート地点でありたい。どうせやるなら、自分の人生に生かしてなんぼ!周りの人、社会に認められてなんぼ!やと思う」
そう確信した彼は、3年前に『農Musical 農Life』を提案する。
しかし当時、彼は自分の想いをうまく伝えられず実現するまでに至らなかった。
それでも、『農Musical 農Life』の原形を身をもって強烈に体験している彼は、決して諦める事はなかったという。
彼はその後、楽しみながら『農』にふれる事を目的とした『楽×農ぷろじぇくと』を自ら立ち上げ、外に出て自然の中で命にふれる事がいかに大人にとって必要かを、仲間と共に自ら行動して周囲にその魅力を伝えていく。
自分の考えをストレートに伝える彼の性格は、時には周囲とぶつかることもあった。
しかし、社会人として数多くの試練を乗り越えてきた彼は、「すぐに伝わらなくて当たり前」という信念を持ち、自分を信じ行動し続ける。少しずつ彼の本気が周囲に伝わっていく。
そしてついに19期プログラムで『農Musical 農Life』という彼の3年越しの想いを実現するため、彼の本当の挑戦が始まった。
「3年前、自分1人が見えた景色がみんなと分かち合えてきている気がする。嬉しいと同時にとても大きな責任を感じてる。自分の想いに賛同してくれた仲間や協力サポートして下さる皆さんのためにも、自分が一番『社会』という土にまみれ、泥にまみなあかん!なんか、自分の中でそうやって沸々と湧き上がっている」
距離があるからこそ、笑顔にパワーが生まれる
そして彼は、プログラム終了後の自分達そして、畑で育まれた『命』の未来を考えている。
「収穫した大豆は、東日本大震災の被災地に届けたい。関西と東北は遠いけど、距離があるからこそ笑顔にパワーが生まれると思う。そして、感じてた距離に本当は距離なんてないって感じたときに、生まれるなにかがあるはずやと思う」
そして彼はこうも語る。
「目の前にある事を一生懸命に楽しみながら取り組んだ事が、後ろを振り向いたら社会の役にたっていた…という形をつくるのが、自分のプロデューサーとしてのチャレンジだと思っている」
彼の想いがゆっくりと仲間そして周囲の人々に着火し『農Musical 農Life』は、いつしか皆の想いとなり、実現に向かって一歩ずつ着実に歩んでいる。
10月15、16日に彼らはミュージカル公演本番を迎える。時期を同じくして大豆も枝豆として実となり、11月にはさらに成長した大豆として収穫期を迎える。
彼らと大豆の成長の先で、どんな笑顔に出会えるのだろうか…。
神谷宗孝(かみや むねたか))
他団体を介してコモンビートを知ったのがきっかけで、ミュージカル『A COMMON BEAT』7期公演を鑑賞。社会を変えるパワーがあると感動し、9期にキャストとして初参加。14期キャスト兼スタッフ、2011年4月コモンビート理事に就任。現在は19期プロデューサーとて活躍中。
工業用刃物メーカー勤務。主に営業として世界中を飛び回っている。
夢は「世界一幸せな家族」をつくること。