「逃げた先に、自分と仕事の未来が待っていた──青年実業家が語る、ビジョンを伝え続ける大切さ」 株式会社博水 江越雄大 【アフタートーク vol.3】 | NPO法人コモンビート

「逃げた先に、自分と仕事の未来が待っていた──青年実業家が語る、ビジョンを伝え続ける大切さ」 株式会社博水 江越雄大 【アフタートーク vol.3】

私たちNPO法人コモンビートでは、さまざまな年齢や職業の社会人・学生100人が集まり、お互いの個性を響き合わせて創り上げる「100人100日ミュージカル®プログラム」を全国各地で開催しています。

与えられた環境のなかで、いかに自身の納得する生き方を選び、他者と関わっていくか──。「100人100日ミュージカル®」を通して、自身のキャリアやステップに活かされたストーリーを紡ぐ「アフタートーク」シリーズ、今回は第3回目になります。今回、話を聞くのは、江越雄大さん(通称:エド)。明治時代から続く株式会社博水(練り物製造)の5代目を務めています。2015年に入社した当時は、会社の目指すべき方向が定まらず、悩む日々を過ごしていました。「自分は何を目指して仕事をしているのか?」その答えが見つからず、迷い続ける日々。

そんな中、2019年に福岡で開催された、ミュージカルプログラムに出会います。多様な人々が集まり、100日間という限られた時間の中で協力し、舞台を創り上げるという挑戦。そこで彼は、組織を運営する上での重要な視点を学びました。

「逃げた先で、自分と仕事に向き合う力を得た」――そう語るエドの想いと、そこから彼の会社や組織に起きた変化をお届けします。

「まとまらない気持ちで家業を継いでいた」

2019年、――迷い続けた日々の中での決断

「正直なところ、家業から逃げるような気持ちでした。」

エドは、2015年に家業に入社したものの、何を目指して仕事をしていくのかが見えず、漠然とした不安を抱えていました。会社は長い歴史を持つものの大きな規模ではなく、従業員も数名。その小さな組織の中で、未来を描くことができず、ただ日々の業務をこなすだけの状態になっていました。

「舞台を創るということに興味はありませんでした。ただ、何か違う環境に身を置いてみたいと思ったんです。」

そんな曖昧な気持ちで参加を決めたエド。その後の100日間はどうだったのでしょうか。

「100日間で舞台を創る」というゴールが、自分の仕事観を変えた

参加して最初に驚いたのは、「100日間で、初対面の市民100人が舞台を創り上げる」ということ。

「それまで、経営を積極的に学ぼうとも思わなかったし、父親から会社について話を聞いたこともなかった。ただ漠然と、家業を続けていくだけの人生なのかなと思っていました。」

しかし、多様な人々がそれぞれの個性をいかしながら、一つの舞台を創り上げる姿を見て、ふと気づいたのです。

「これって会社と同じじゃないか?」

組織にはゴールが必要であり、それを共有することが大切。「100日間で舞台を創る」というゴールに向けて100人全員で全力でぶつかっていく100日間は、まさにそれを体感できる日々でした。「観たお客さんにこんな風に思ってもらえる舞台にしたい」「このミュージカルを通じて、地域に元気を与えたい」…ミュージカルの現場ではいたるところでそれぞれの想いが語られ、それが仲間を鼓舞する姿を見る中で、会社を運営するうえで最も重要なことを学んだ気持ちだったといいます。

組織にはゴールが必要であることに気づいたエド。そこから会社の未来やこれからを考え、ゴールの先にあるビジョンを描きながら、それを周りに伝えることが大切だということに気づきました。

「ビジョンを持つことで、会社も人も動き始めた」

ビジョンの共有が、組織の変化を生む

「ビジョンを持つことの大切さ」を痛感したエドは、社内で経営の方向性や価値観を明確にして、それを社員と共有することを考え始めました。

「それまでは、会社はただの『仕事をする場』でしかありませんでした。でも、100日間の経験を経て、自分自身が会社の未来を描き、それを社員と共有することが必要だと思うようになったんです。」

コモンビートに参加して数年後、新しい仲間が入社する際には、、自分なりのビジョンをしっかり言葉にして伝えた上で、入社してもらうことができました。「こういう商品を作りたい」「こういうことに挑戦したい」「練り物にはまだ可能性がある」という言葉を伝えることで、前向きな空気が醸成され、同じ方向を向いて一緒に頑張り続けることができたのです。結果、売上高などの経営指標にも良い変化が現れ、組織が、会社がじわじわと動き出すことを実感していきました。

社員からアイデアが生まれる

「以前は、社員とのコミュニケーションも少なく、ただ仕事をこなすだけの雰囲気でした。でも今では、新しく入社した社員であっても『こんなことを試したい』『こういう商品が作れそう』というアイデアがどんどん出てくるようになりました。」

自分自身がまず、練り物に魅力を感じ、可能性を感じられることが嬉しかったエド。そしてそれが社員にも伝わっていき、社員自らアイデアが出てくることは、思いもよりませんでした。エド自身も、チラシを作ってポスティングしたり、直売店で練り物の揚げたてをデモ販売したり、さらには通販の顧客に手書きの手紙を送ったりと、必死に動いたそうです。組織全体が「挑戦し、前に進む空気」に変わったといいます。

「地域と会社の垣根を越えた“つながりの場”を作りたい」

そんな変化の中、エドは今後の展望について語ってくれました。「実は、会社の2階を誰でも集えるコミュニティスペースにしたいと思っています。コロナ禍の無人販売で、お客さん同士が『この商品は、おいしいよ。買う時は、こうすればいいよ』と教え合っている姿を見ました。その時、『会社と地域の壁をなくせば、何か面白いことができるんじゃないか』と思ったんです。」

コミュニティスペースを作ることで、社員と地域の人々がつながる。練り物体験教室や料理教室、書道教室など、さまざまなイベントが生まれることで、誰かと誰かがつながる場所にしたいという思いがあります。

「コモンビートがそうだったように、僕の会社でも “何かを始めるきっかけになる場” を作りたいん。」

会社という枠組みを超えて、人々が自然に集まり、お互いに学び合いながら楽しめる場。そんな場所をつくっていきたいとエドは強く語ってくれました。そしてこのコミュニティスペースがあることで、社員がお客さんと直接関わりあい、自社の商品がどうお客さんに届けられているのか、どういった価値を生み出しているのかを知ることが、社員一人ひとりのモチベーションUPにも繋がっていくのではないかと考えています。

最後に──人生がちょっとずつ、でも確かに動き出す。

最後に、エドにこれからコモンビートに参加する方に向けて、メッセージをもらいました。

「何かに一人で向き合うことも大事かもしれませんが、コモンビートであれば、他人との関わり合いの中で、それに向き合うことができます。『自分にできる/できない』や『他人ができる/できない』に多く触れて、憧れたり、諦めたりもできる。でもそれは、優劣ではなく、違いであると感じます。だからこそ、100名の多様な人と関わることは、自分の視野を広げることになり、ほんの小さな勇気が、自分と他人を大きく変える一歩になります。

僕もかつては自分に自信がありませんでした。コミュニケーションも苦手でした。でも、誰かとつながって、自分で自分をちょっと表現してみるだけで、世界が変わっていきます。その可能性を、コモンビートは開いてくれます。迷っているなら、ぜひ一歩踏み出してみてほしい。人生がちょっとずつ、でも確かに動き出すはずです。」