3/7(火)、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)をテーマに、違いを知り、違いと出会い、違いとつながっていくための「See the difference」の第30回が開催されました!今回のゲストは、車椅子トラベラーの三代達也さんです。
三代さんは、18歳の時のバイク事故で首の骨が折れ、頸髄損傷という障害を負いました。両手両足が不自由となり、腕は動くけれども(車椅子はこげる)、指はほとんど動かないそうです。また首から下の神経が麻痺しているので、感覚障害(熱い/冷たい/痛い感覚がない)も併せてあるそうです。旅をするときに、階段や急な坂道があっても自分の力でそれを乗り越えることは難しい状況とのことです。
そして、事故から10年後に、約9ヶ月間かけて車椅子で世界一周一人旅に挑戦したそうです。イギリス、イタリア、アメリカ、インド、ブラジル、エジプト、ケニア、チリ、マチュピチュ、ボリビアなど道が舗装されているところも、そうでないところも果敢に訪れていったとのことです。そのような挑戦から、国内外のバリアフリー観光調査に携わり、大手旅行会社や全国の観光協会と組んで、ユニバーサルツーリズムの推進をされているとのことです。
海外のバリアフリーの状況
東南アジアや南米はバリアフリーが整っているイメージがありますか?と三代さん。イメージするのは道がでこぼこだったり、お店の入り口には段差があったり階段があったり全然整っていないものですよね。でも、旅する中で「通れないな」「登れないな」と困っているとすぐに周りの人たちが声をかけてくれて助けてくれたとのことでした。彼らは自分だけでは手伝えないと思うと、さらに通りすがりのひとたちに声をかけてくれて、知らない人たち同士の即席チームが生まれ、ささっと手伝って颯爽と解散していくそうです。ある程度世界中を旅していてこういったことは起きるそうですが、「微笑みの国」と呼ばれるタイでは笑顔で手伝いに集まってくるところが頼みやすくて、居心地がよくて最高だったそうです。
日本のバリアフリーの状況
海外のバリアフリーの状況を聞くと、日本では全然見られない光景なことに驚きを隠せませんでした。日本では誰かひとりが手伝ってくれることはあるけど、その人が他の知らない人に声をかけることは滅多にないそうです。ですが、なんと沖縄だけは例外だそうです。東京で居酒屋さんに入ろうとすると「段差があるので入れません」と店員さんが断ってくるのがスタンダードだそうです。三代さんは今は沖縄に住んで2年になるそうですが、車椅子が理由で入店を断られることはないそうです。「こういう時、どうやって入ってます?」と店員さんは質問してきて、入店することを前提に創意工夫してくれるその姿勢は、タイや海外での対応と近しいものを感じるそうです。
事故にあった「自分」を受け入れる
事故後は本当につらく、その状況を受け入れられなくて「死にたい」と思ったこともあったそうです。ですが、世界一周の旅から帰ってきて開催した初めての講演会に、引きこもっていた車椅子ユーザーの方が、7年ぶりに家を出て参加してくれたそうです。そうやって三代さんの挑戦に刺激を受けて他の車椅子ユーザーの方の生きる力になることがあることがわかったときに、車椅子である自分自身に価値を見出せたそうです。
あまりにもフランクな「なんでおまえ車椅子なの?」
三代さんはなぜ世界一周の旅に出たのでしょうか。車椅子になってから、どうにも行けない場所がたくさんあって生きづらさを感じたそうです。そんな中でハワイに旅行に行った時に2つの驚きがあったそうです。ひとつ目は、どのお店にもスロープがついていたり、障がい者用トイレがあったりして入れないお店がないこと。ふたつ目は、「お前の車椅子かっこいいな!」「その靴かっこいいな!」「髪型いいな!」気さくに話しかけてくること。日本では躊躇してしまいそうな「なんでおまえ車椅子なの?」という質問があまりにもフランクに出てくるのが嬉しくて心が楽だったそうです。そういう世界の状況を三代さん自身が旅して情報発信することで、誰かが一歩踏み出すことにつながるのではと思って、「ちょっとやってみようかな」くらいの感覚で、世界一周の旅にさらに挑戦することにしたそうです。
海外に出るからこそ、わかる日本の良さ
日本のバリアフリーがあまりイケてないような話の流れもありましたが、三代さんはそうではないと言います。旅をしながらいろいろな世界のトイレを見てきたそうですが、日本のハード面はすごいそうです。特にトイレ。日本にだけいると、日本のトイレに対して愚痴をこぼす人も多いですが、世界を旅して多様なトイレを知ってみると、日本のトイレのすごさに気づきます。海外に行くと柔軟な頭ができるので、障がいがある人に限らず旅に出ることは本当に良いことだと伝えてくれました。
車椅子で旅をしてみつけた、新しい世界
三代さんが旅をするようになって見つけた新しい世界はなんなのでしょうか。それは「バリアのほとんどが人の力で超えられる」ということだそうです。自分ひとりでは超えられないことも、周りの人の力があれば超えていけるはずだという考え方に出会ったことだと言います。また、一番美しかったものは何?という質問には「見えないものは心、見えるものは景色」と伝えてくれました。そして構造物を観るよりも、景色を観るほうが好きだと言います。なぜなら景色を観に行くほうがきっとバリアが多く、その茨の道を超えるプロセスこそが、辿り着いてからの感動を生み出すからと言います。「一人旅ではありましたが、人に囲まれた旅でもありました」と笑顔で語っていたのが印象的でした。
「見える」を「見てる」に変えていきたい
三代さんは「見える」を「見てる」に変えていきたいといいます。世の中には困っている人がたくさんいます。そんなひとたちを視野に入れるだけの「見える」じゃなくて、意識して視野に入れて彼らに何ができるか考えてみる「見てる」。そうすると次の日から見える世界が変わるはず、気にしなかったところを気にするようになる。そういうアクションをつくっていきたいと力強く語られていました。
参加者のみなさんからの質問は止まらず、双方向に対話が生まれた面白い時間でした。ひとつひとつの質問に丁寧にご回答くださった、三代さん、ありがとうございました!参加者全員で明日からのアクションを発表しあって、イベントは終了しました。
次回4/19(水)のSee the differenceは、映画・映像に対してバリアフリー字幕や音声ガイドの制作をされている、Palabra株式会社 代表 山上 庄子さんをゲストにお招きします。「エンタメをみんなで一緒に楽しむには?」というテーマになりますので、ぜひお楽しみに!
See the difference
モデレーター 安達亮(りょう)