「この世界で生きていく」鈴木 啓文 | NPO法人コモンビート
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「この世界で生きていく」鈴木 啓文

「この世界で生きていく」鈴木 啓文

「役者にとって自分の感情と身体が楽器」

鈴木啓文(よしふみ)さん26歳、職業は役者。
ここ最近、彼の役者として躍進は目を見張るものがある。
現在、次回出演の舞台に向けて稽古の真っ最中だ。
この日、2週間ぶりの休みという彼は、役者を目指したきっかけを熱っぽく語り始める。


「もともと小さい頃から芸能界には興味があった。中学生の時、テレビのオーディション番組から男性ツインボーカルユニットCHEMISTRY(ケミストリー)がデビューしたのを見て感動して、自分もこっちの道に進みたいという想いが強くなった。
でもうちの親は学歴に厳しかったので、親には言い出せずに高校に進学し、一年浪人して大学にも入った。大学時代付き合っていた彼女がミュージカルをやっていたのもあり、自分もボイストレーニングに通うようになった」
彼は、ボイストレーニングのレッスンで知り合った仲間の影響で、ミュージカル『A COMMON BEAT』第6期プログラムに参加する。
「この頃は、ミュージカル俳優を目指して本格的に活動していこうと決めていた。
勉強のために色々なミュージカルを観て、ただダンスや歌がうまいだけでは心打たれないんだと気付いた。何に惹き付けられるか考えた時…結局は芝居だった。人は芝居のうまい人に心打たれるんだと思った」
その後彼は、芝居に強く興味を持つ。
「6期プログラム参加の後、コモンビートの仲間のひとりが所属していた劇団の公演に出演させてもらう事になった。そこで初めて、本格的に芝居をした。最初はどうしていいか分からなくて全然つまらなかった。それでも稽古を続けているうちに、間の取り方や言葉じゃない空気感が感覚で分かってくると、突然芝居が面白いっていう瞬間が来た」
この時、芝居の魅力を鮮烈に味わった彼だったが、演技の基礎がなく鳴かず飛ばずの時期が、その後2年間続いたという。
「さすがにこのままじゃいかん!と思い、芝居の事を一から学ぶために、演技のワークショップに通いはじめた。
そこで自分の過去に体験した事を思い出し、ひとつひとつ蓋をしていたものを表現していった。役者にとって、自分の感情と身体が楽器だという事を身をもって体験した。自分の感情の管が広がった感じ。このワークショップに参加して自分の演技感が変わったと思う」
彼の中で何かが変わり始めた時、彼の芝居にもそれがカタチとなって表れる。
芝居で重要な役を演じるチャンスを次々とつかみとっていった。
「この世界で生きていく」鈴木 啓文

「どんな時も、役者として心を届けていくしかない」

現在、5月23日から始まる新国立劇場 小劇場での公演、Kiss Me You~がんばったシンプー達へ~の舞台に向けて、彼はすべての情熱を稽古に注ぎ込んでいる。
「昨年末に主演を務めた前回の舞台が終わってすぐにKiss Me Youの演出家の方から、『この舞台に出ないか?』と声をかけて頂いた。自分のプロの役者人生の中で、こんなに大きな舞台に出演させて頂くのは初めて。
実力のある役者さんに囲まれて、日々学ぶ事だらけ。この舞台は、戦時中の特攻隊の話だけど、劇の前半はコメディ。自分にとってコメディは初挑戦で、ただドタバタしているだけでは全然面白くないし、間のつくり方とか雰囲気の出し方など、とっても難しい」
苦労している事さえも、実に楽しそうに語る彼。
前回の舞台では老人を演じる場面があったが、26歳の若者が演じていると思えないほど、年齢を重ねたからこそ得る事ができる年輪と哀愁を醸しだし、その息づかいや身のこなし方などすべてが”老人”そのものを表現した、彼の演技力と存在感に観客は魅了された。
「前回も今回と同様、戦時中の特攻隊の話だったので、戦争に関する本を10冊以上読んだし、少しでも時間が空いたら、特攻隊に縁ある場所に足を運んだり…
前回は、おじいさん役も演じたので、モデルとなる人を探して観察させてもらったり。役づくりには時間も金も惜しんじゃダメだって思っている。どんなに頑張ってもその人にはなれないけど、どれだけ近づけるが重要!」
彼の役づくりにおける信念を聞き、あの鬼気迫る演技の理由が知れた気がした。
プロの役者を始めて6年。まだまだ生活は厳しいが、彼は、役者の道一本で生活しているという。
決して最初は順風満帆とは行かなかった彼の役者人生。
辞めたいと思った事はなかったのだろうか…。
「辞めてどうなる!ってずっと思ってる。今さら普通に就職するなら、大学卒業した時点でとっくに就職してたしね。ずっと応援してくれてる人達や仲間がいるから、やらなきゃって思う」
と迷いなく答える彼。
「これまでの人生で学んだ事、社会に発信したい事、自分の中で思ってるだけではどうにもならない!
それを社会に発信する手段が俺の場合、たまたま芝居だった。俺は、これからもこの世界で生きていくんだなぁって思っている。
震災などが起きると、一番先に排除されるのは芝居。芝居は、日常生活の再現に過ぎない。必要性で言うと底辺の存在なのかもしれない。それでも、芝居を観て自分も頑張ろうって思ってくれる人は必ずいる。人が立ち直るためは、芝居は絶対必要!
俺はどんな時も、役者として心を届けていくしかない」
自分の信念を貫く彼に、最後に役者としての将来の目標を聞いてみる。
「以前はミュージカル俳優になりたかったけど、今は舞台に映像にジャンルを問わず活躍できて、主役ではなく常に2、3番目で存在感のある役者になりたいと思ってる。自分の演技で相手を引き立てていけるような役者になれたらいい。自分は役者としての経験も浅いし、若いし…まだまだ!」
この世界で生きていくという覚悟を決めた彼の眼差しの先に、果てしない世界が広がっている。

鈴木啓文さん

鈴木 啓文(すずき よしふみ)

芸名 鈴木 了平(すずき りょうへい)
ミュージカル『A COMMON BEAT』第6期プログラムにキャストとして参加。その後、8、10、15期にプラックスピリッツ(キャスト経験者から構成される舞台スタッフ)で舞台人としての経験を生かし活躍。
5月23日から27日まで新国立劇場 小劇場でおこなわれる舞台、Kiss Me You ~がんばったシンプー達へ~に出演。今後も舞台や映画への出演が決まっている。
趣味はダーツ。

»鈴木了平ブログ りょーへーの「目力はほどほどに。」
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