自分は配役オーディションを経て青大陸の権力者になった。
それが発表された瞬間は選んでもらえたことがただ純粋に嬉しかった。
でもその直後に気付いた。
これが自分にとって途轍もない試練であることに。
自分はリーダー格ではない。
台詞なんて言ったことない。
争いごとが大嫌いで怒りを表に出すことなんてほぼ無い。
自分の中に権力者的な要素をあまり見つけることができず、
権力者という役は自分からはかけ離れているもののような気がした。
いつも内心ビクビクしている小心者なのに、大陸の中で最も権力を持っている役だなんて。
まあ劇中の役だから、と自分に言い聞かせてみたりもしたけど、
自分の中に無いものを引き出すことなど特に演劇などしたことのない自分にとってはあまりにも難しいことだとすぐに気が付いた。
ならば普段の自分を少しでも権力者に寄せていこうと思って、変に焦りながら何か仕切ったりしようとするけれど、特に最初の方は分からないことだらけで経験者に頼るしかなくて結局自分は何もできなかった。
でも青大陸が何か課題にぶつかる度に、そんな自分が少しずつ変わっていけたように思う。
青大陸の中で起こったことは自分のこととして真剣に向き合うように努めた。
誰かの、とかみんなの、とかではなく自分自身のこととして。
そうしていくうちに青大陸の結束がどんどん強まっていくのが感じられてとても嬉しかったし、そんな青大陸の権力者であることに誇りを持てるようになった。
「私は逃げない!!」丘の上で一人練習している時にこの台詞を叫んだ。
遠くにいた見知らぬ人がびっくりしてこちらを振り向いた。
ある日自分の大陸のメンバーが他の大陸のメンバーと仲良さげに話しているのを見て
「いつの間にあんなに仲良くなったんだろう。僕の知らない間に…」
と嫉妬にも似た気分を覚えた。
その瞬間、少しは自分も権力者らしくなってきたのかな、とも思えた。
本番は3公演とも驚くほど緊張しなかった。
実はマイクチェックやゲネプロで若干ミスをしたのだが、これを全く引きずることがなかった。
これは小心者の自分にとっては本当に驚異的なことだった。
青大陸のメンバーが「信頼してるよ」とか「ついてゆきます!」とか言ってくれたことがいつの間にか自分の力になっていた。
みんながいるから自分は自信を持って権力者として舞台の一番前に立つことができた。
何も恐くなかった。本番は本当に夢のようにひたすら楽しかった。
「これは夢じゃないからー」そんなフレーズが何度も頭の中でリフレインしていた。
自分は今までもあれこれ色んなことに挑戦してきたけど、こんな満ち足りた気持ちになる体験は初めてだった。
この公演に自分が出れたことや見に来てくれた人がたくさんいたことがなんて幸せなことなのだろうと思うと、自分と関わってくれている全ての人に感謝したい気持ちでいっぱいになった。
100日は終わったけれどもそんな気持ちを忘れないでこれからを過ごしていきたいと思う。
青大陸権力者 谷口薫(プリンス)