COMMON BEAT 教育フォーラム 2025 in 東京 開催レポート | NPO法人コモンビート

COMMON BEAT 教育フォーラム 2025 in 東京 開催レポート

2025年8月16日(土)、北とぴあにて「『感性を育む教育のミライ』COMMON BEAT 教育フォーラム 2025 in 東京」を開催しました。

今回コモンビートでは、初めて「教育」をテーマに掲げ、フォーラムを開催。ゲストには、幸福学の第一人者である武蔵野大学教授 / 慶應義塾大学名誉教授の前野隆司先生と、日米でパフォーミングアーツを用いた教育実践を行ってきた教育学博士の箱田賢亮先生をお迎えしました。

当日は、教育関係者やワークショップデザイナーなど47名が参加し、それぞれの視点から「表現活動がもたらすウェルビーイングな学び」や「感性を育む教育」をテーマに語り合いました。

講演1:前野隆司先生「アートと自己表現が、幸福感を育てる」

前野先生は、「自己表現とウェルビーイング」というテーマで講演を行い、現代社会におけるアートや表現活動の意味について語りました。

自分のことで精一杯になってしまいがちな時代に、人のことを思いやる力、美しさを感じ取る感性こそが平和な社会をつくります。アートにはそれを可能にする力があります

科学的なデータに基づいて、アートが人の人格形成やウェルビーイング(心身の健康や幸福感)に与える影響についても解説されました。

  • 作曲家、歌手、舞台芸術家など、創造的なアート活動に関わる人々は、一般の人々よりも幸福度が高い。
  • WHO(世界保健機関)による研究でも、芸術活動は、心の健康を保ち、「自分は何のために生きているのか」といった人生の目的意識や人間関係の構築にも良い影響を与えている。

さらに講演では、前野先生が提唱する「幸せの4因子」について紹介されました。また、この4つの要素は、コモンビートの活動と非常に高い親和性があるとし、次のように語られました。

■ 幸せの4因子とコモンビートの関係
① 「やってみよう」:自立性ややる気、挑戦する意欲
 
→ 100人で100日間でミュージカル®を創り上げるという大きな挑戦が、まさにこの意欲を引き出す。

②「ありがとう」:人とのつながりと感謝
 
→ ともに舞台をつくる過程で、他者との協力や思いやり、感謝の気持ちが自然に生まれていく。

③ 「なんとかなる」:前向きなチャレンジ精神
 
→ 制限された時間の中での創作は困難も多いが、それを乗り越える経験が「なんとかなる」という感覚を育む。

④ 「ありのまま」:自分らしさの肯定
 
→ 自分の個性や表現を大切にしながら舞台に立つ経験が、「そのままの自分でいていい」という自己受容につながる。

これらはまさに、コモンビートが100人、100日間でミュージカルを作る過程で育まれるものです。

講演2:箱田賢亮先生講演「“やらされる学び”から、“やりたくなる学び”へ」

続いて箱田先生は、「生徒中心教育(Student-Centered Learning)」をテーマに、子どもの好奇心を起点とした教育のあり方を語りました。箱田先生はコロンビア大学での教育研究や、現在の「マルバーン・カレッジ東京」での実践から、生徒の自主性を引き出す教育がいかに重要であるかを強調しました。

人は本来、学びたい存在です。それを信じ、環境を整えることが、教育者としての大切な姿勢です。学びたい環境、学べる環境、自分がやりたいことを実現できる環境が整えば、人は自ら進んで学びます。教育が「MUST(やらなければならない)から「WANT(やりたい)」に変わったとき、本当の学びが動き出します。

具体的な「学びのサイクル」についても説明がありました。

<学びのサイクル>

  1. 好奇心:「新しい知識を得たい」という欲求。
  2. 探求と発見:知識を得るための方法を考える。
  3. 取得:知識を習得する。
  4. 分析と発見:得た知識を分析し、再発見する。

また、近年注目されるAI技術が教育に与える影響についても触れ、次のように指摘しました。

AIの台頭により「知識を教える」役割は機械に代替されていく一方で、教師や親は「成功体験を支える存在」が役割となります。成功に勝るモチベーションはありません。

グループ対話

講演後はグループディスカッションとゲストとの質疑応答が行われました。

【参加者からの問い】
自ら進んで「やりたい」と思わない子どもたちに対し、その意欲を引き出すためには何が必要となるのでしょうか?

前野先生:
子どもが “本当にやりたいことがない” ということはほとんどありません。“何が好き?どんなときにワクワクした?”、と丁寧に問いかけ、認めていくことが第一歩です。

箱田先生:
特に低学年の子どもたちは、他人に認められることに強い喜びを感じます。だからこそ、周囲の大人が積極的に関わり、小さな成功を見逃さずに認めてあげる環境づくりが大切です。教育者に求められるのは、子どもたちの行動を認め、褒める環境を作ることです。そうすることで、「できた」という実感を積み重ねられることが、前向きな学びの姿勢を育む土台となります。

参加者の声(一部抜粋)

・尊敬する前野先生の講演を通じて、アートに対する理解が広がりました。また、箱田先生のお話のなかで「やらなければならない」から「やりたい」へと変わる瞬間に本当の学びがあるということを実感しました。これは、子どもたちだけではなく、職員に対しても同じであると、園長として、深く腹落ちしました。

・教育の目的は「子どもの成功体験を育む場をつくることである」というお話に深く感銘しました。日々、AIが進化する中で「人にしかできない教育とは何か」を考えていた私にとって、非常に明瞭な見解をいただき感謝しています。

今回のイベントを通じて、「子どものやりたい気持ちを引き出すことの重要性」が改めて強調されました。すべての子どもが持つ可能性を信じ、問いかけを通じて主体性を育むことが教育者に求められる役割であると再認識する機会となりました。

本イベントへご協力してくださった前野先生、箱田先生、会場運営に携わってくださったフェススタッフの皆さま、公演関係者の関係者の皆さま、そしてご参加いただいた皆さま、大変ありがとうございました。今後もコモンビートでは、100人100日ミュージカル®プログラムの活動でこれまでに培った経験をもとに、感性や好奇心に働きかける表現教育を提供していきます。

次回は2025年9月14日(日)に『グローバル・シチズンシップアドバイザー』辰野まどか氏を招き、COMMON BEAT 教育イベント 「〜若者たちが主体的に動き出す場づくりの秘訣〜」を開催予定です。多くの皆さまのご参加を心よりお待ちしております!