私たちNPO法人コモンビートでは、さまざまな年齢や職業の社会人・学生100人が集まって、お互いの個性を響き合わせて創り上げる「100人100日ミュージカル®プログラム」を全国各地で開催しています。その100日の過程では、多様な仲間とのやり取りや、ワークショップなどを通じて、一人ひとりのコミュニケーションのあり方が進化していきます。
「100人100日ミュージカル®」を通して、自身のスキルを開発し、キャリアを発展させたストーリーを紡ぐ「アフタートーーク」の第4回目になります。今回、話を聞くのは、新聞記者として活躍をしている久川凌生さん(通称:きゅーちゃん)です。彼には、前職の教育関係の事務職に従事していた頃に、悩んでいることがありました。きゅーちゃんの悩みは、チーム内のコミュニケーションが「自分の好き嫌い」で左右されるギスギスした空気や、複雑な人間関係でした。
そんな中、コモンビートのミュージカルプログラムに参加したことで、彼は「相手を否定せずに、その意見がどのような背景から生まれたのかを丁寧に聞く」という新たなスタンスを身につけました。プログラム卒業後には、コモンビートで出会った仲間と同じように充実した時間を過ごすことを決意し、夢であった新聞記者に転職しました。今、「その人そのものを知る」という姿勢を大切にし、取材に取り組んでいます。きゅーちゃんがコモンビートで得た学びと、それが職場やキャリア、そして社会にどのような価値をもたらしているのかを、彼自身の言葉で語っていただきます。

「否定しない」という第一歩 ──相手の内面と向き合う勇気
―コモンビートのミュージカルプログラム前後の変化について―
Q:コモンビートに参加する前、ビジネスにおける人との関わりにおいて、どのような課題がありましたか?
きゅーちゃん:
当時は、ジェンダーに関する悩みもあり、自分をどう表現すべきか迷っていました。前職では、上司や同僚とのコミュニケーションが“好き嫌い”に左右されやすく、素直になれない場面が多かったんです。当時を振り返ってみれば、上司は、私生活の状況でただ自分に余裕が少なかっただけ。同僚は、上司のそうしたしんどい状況を知らなかっただけ。ちょっとした行き違いが、チームの雰囲気や生産性を下げていたと思います。
彼自身も、硬直した職場の雰囲気の中で、周囲と同様に自分のスタンスを十分に変えられていなかった。嫌な気持ちになりやすいコミュニケーションが続く結果、組織全体の成果も停滞。そんな中で環境や自分を変えるきっかけになると思って参加したコモンビートでのプログラムは、参加者一人ひとりが自らの心と向き合い、率直な意見交換をする場でした。たとえば、「その人のイメージを相手の背中に書く」というアクティビティでは、お互いの良さを見つけ出す大切さに気づいたそうです。
きゅーちゃん:
コモンビートでは、自分が思ったことを相手に言葉で伝えても、「放っておいて」や「余計なお世話」といった反応はありません。これは、自分にとっては魔法のようなことで、「コモンビート・マジック」と密かに呼んでいます。一人ひとりに合わせて、相手が受け入れやすい声掛けをしているのが印象的でしたね。
きゅーちゃん自身にとって、「誰かを否定しない」「まずは耳を傾ける」ということを体感できた瞬間でした。

受け入れる力が生んだ変革 ──コミュニケーションによる組織活性
― さらに深まった対話、小さな積み重ねの成果 ―
Q:プログラムを通して、具体的にどのような変化が生まれましたか?
きゅーちゃん:
プログラムでは、「否定しない」という姿勢が自然と身につきました。以前は、会話中に感じた違和感や反発心をそのままぶつけてしまいがちでした。今では相手の意見に寄り添い、「なぜその意見を言うのだろう?」と背景を探るようになりました。
Q:具体的なエピソードはありますか?
きゅーちゃん:
前職で、少し苦手な上司(Aさん)がいました。コモンビートに参加する前は、業務上の必要なことのみをそっけなくやり取りするだけでした。しかし、コモンビートでの学びを経て、「Aさんの言い方には何か理由があるのではないか」と思い始めました。Aさんがリラックスして話せそうなタイミングを見計らって「何かできることはありますか?」と声をかけたところ、Aさんが抱えている悩み―お子さんの大学受験のこと―を話してくれました。それ以降は、「大変ですね」「何かお手伝いできることはありませんか?」と小さな労いの言葉をかけることで、Aさんの発言のあり方も次第に変わってきました。
Aさんとのコミュニケーションが、結果としてチーム全体の雰囲気を和らげ、チーム全体の雰囲気やコミュニケーションの取り方が変わったそう。組織全体の雰囲気が少しずつ明るくなり、活性化していったそうです。

「100日の中で起こった学び」は早く長く効く ──新聞記者として社会課題を解く
― 未来に向けて ―
Q:このプログラムで学んだ『相手を受け入れるスタンス』を、今後はどのように活かしていきたいと考えていますか?
きゅーちゃん:
この学びは、新聞記者として取材するときにいきています。まずは取材する方との信頼関係を築くこと。取材する方が、重いテーマや言いにくいことを抱えていることもあります。その時は、無理に話を引き出すのではなく、まずは相手のペースに合わせ、内面や背景にじっくりと耳を傾けること。その結果、一人ひとりの本当の声や想いを記事として伝えることができると感じています。そうして生まれた記事こそ、今の時代に「こういう思いの人がいる」と読者を勇気づけ、社会に埋もれがちな課題に気づくきっかけになると信じています。
なるほど。素敵ですね。
きゅーちゃん:
あの100日間で得た経験は、ただの一過性のものではなく、一生の財産です。長期にわたる信頼関係を仲間と築くこと、その過程で自分がどう変化したかを内省し、記録に残すこと。こうしたコモンビートの仕組みは、コモンビートで過ごした100日間が終わった後もずっと続き、僕が新聞記者に転職できたように、その人のキャリアを発展させると思います。そして、その先には社会課題の解決にもつながるのではとワクワクしています。
きゅーちゃんが、成長とともに新聞記者としての使命感をより一層強く感じ、社会に存在するさまざまな課題や人々の真の姿を伝えていることは、私たちにとってもとても嬉しいことでした。

最後に ──きゅーちゃんからのメッセージ
Q:最後に伝えたいメッセージなどあれば、お願いします。
きゅーちゃん:
小さな勇気が、未来を大きく変える。私たちがまずは相手を否定せず、その話に耳を傾けることこそ、真に人を理解する第一歩。コモンビートで得た力は、プログラムが終わった後もずっと僕の中で輝き続け、取材や日常のあらゆる場面で、支えとなっています。これからも、信頼と共感を大切にしながら、社会をよりよくする記事づくりに励んでいきたいと思います。
きゅーちゃんがこれからも、新聞記者として活躍し続けることを心から応援しています。