コモンビートでは、メイン活動である「100人100日ミュージカル®プログラム」において、参加者の主観的幸福感(ウェルビーイング)がプログラム前後でどのように変容したのかを、幸福学の第一人者である前野隆司教授の指標に基づき、計測しています。WHO(世界保健機関)によると、ウェルビーイングは「病気でない、弱っていない事とは違い、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも満たされた状態」とされています。
最新のデータにおいて、2022年から2023年の間で行われたコモンビートのミュージカルプログラム参加者のウェルビーイングは、全項目が有意に向上しており、またプログラム終了後の数値は全国平均の数値を大幅に上回る結果となりました。今回は、そんなウェルビーイングがなぜ大切なのか、4つの注目すべき因子の紹介とコモンビートでの事例をもとに、お話ししていきます。
そもそも主観的幸福感(ウェルビーイング)って
主観的幸福感(ウェルビーイング)とは、心身ともに良好な状態にあることを意味する概念で、「幸福」とも翻訳されます。ウェルビーイングを高める4因子(幸せの4因子)は、以下の4つから構成されます。

また、前野先生は、コモンビートのイベントで登壇された際、ウェルビーイングについて次のように補足説明をしてくださいました。「似た者どうしですと一緒に過ごしやすく、一見すると幸福になりそうですよね。しかし、私たちの研究によると、必ずしもそうとは言えませんでした。たとえば、自分と似た属性の友人を持つ人と、自分とは異なる背景の友人を持つ人を比較すると、後者の方が幸福が強い結果でした。ウェルビーイングを高める幸せの4因子の1つに『ありのまま因子』があり、このときにダイバーシティ&インクルージョンが前提として大事になります」
近年、組織の持続可能性や生産性、さらには従業員のワークエンゲージメントを高めるために、従業員のウェルビーイングを向上させる取り組みが注目されています。個々の「働く意味」や「価値観」が多様化する中で、働くこと自体が人生の充実感や生きがい、そして人とのつながりを育む場として再認識されています。このような背景を受け、CWO(Chief Well-being Officer)の採用やフレックスタイム制度の導入、さらには「社内の感謝を可視化する仕組み」など制度的な施策だけでなく、社内文化を醸成するための取り組みを進める企業が増加しています。組織全体のウェルビーイングを高めることは、もはや重要な経営戦略の一環となっており、働く人々がより良い環境で成長できるための鍵となっています。
しかし、ウェルビーイングを向上することは決して簡単ではありません。たとえば、人々はそれぞれ異なるためウェルビーイングを高める方法が異なり、複数の因子を適切に組み合わせることは難しいと言えます。また、外部からのストレス要因は、個人ではコントロールしきれないので、一時的な施策ではウェルビーイングを向上しきることは難しく、人それぞれ特有の思考パターンに合わせたきめ細かな施策が求められると思われます。では、コモンビートのミュージカルプログラムは、ウェルビーイングとどのように関係しているのでしょうか?次の節から、前野先生の解説とともにひも解いていきたいと思います。
“完璧なリーダーでいないこと” まずは運営側の自分がやってみる
コモンビートの100人100日ミュージカル®プログラムでは、年齢・性別・バックグラウンド・趣味嗜好・価値観・考え方が異なる18歳以上の大人たち100人が集まり、ひとつの “ミュージカル公演の成功” という共通のゴールに向かって活動します。その中で、意見を交わし合い、行動していくことが何より重要です。しかし、このプログラムでは、あくまで個人の意志で参加しているため、健全な衝突を通じてチームとして前に進むための土台が求められます。この土台となるのが「心理的安全性」です。
プログラムには、過去に参加した経験を持つスタッフ約20人に加え、演出やプロデューサー、キャプテンなどのコアスタッフが各1人ずついます。これらのスタッフが「運営者」となり、参加者にとってのリーダー的存在として活動しますが、彼らの特徴は、プログラムの期間中に誰よりも率先して「やってみよう」という挑戦をし、失敗した際には「ありのままに」感情を共有し、仲間に支えられた時には「ありがとう」という感謝の気持ちを伝え、さらにどんな状況でも「なんとかなるさ」というポジティブな姿勢を見せ続けることにあります。こうした取り組みが、参加者一人ひとりに対して心理的安全性を育んでいきます。

これから一緒に舞台に立つ経験者と言えども、スタッフの技術や経験にはばらつきがあり、決して完璧なパフォーマンスとは言えなかったかもしれません。その中には、自信を持てないスタッフもいたでしょう。しかし、その運営者たちは、完璧を求めるのではなく、「やってみる」姿勢を見せ、失敗や悔しさも隠さずに素直に「ありのまま」に共有しました。このような姿勢が、参加者に「完璧でなくても大丈夫だ」と感じさせ、挑戦し続ける勇気を与えるのです。前野先生からは、エンターテインメントとウェルビーイングの関係について、一歩踏み込んだ解説を次のように加えていただきました。
「エンターテインメントは幸福に好影響があると分かっていたので、『観る側』と『創る側』に差があるかを検証しました。具体的には、絵画鑑賞と絵画制作で幸福度を比較したところ、制作した時の方が有意に幸せになっていました。
美しいものを観ることは、もちろん幸せです。しかしながら、美しいものを創ることは、もっと幸せにしてくれる。そうした創造のプロセスにおいて、心理的安全性を担保しているコモンビートは1つの理想形ですね。
ダイバーシティ&インクルージョンとエンターテインメントをかけ算すれば、幸福に意味があるに決まっています。これは検証しなくても当然だとわかる。ミュージカルというエンターテインメントで、コモンビートにはこれからも頑張って欲しいですね」
人は無意識のうちに、理想的なリーダー像を求めがちです。しかし、完璧を追い求めるのではなく、「やってみよう」という挑戦の意志や「ありのままに」という感情、時には「なんとかなるさ」というポジティブな気持ちの共有こそが、メンバー全員がウェルビーイングを自然に受け入れるための鍵となります。この意識と仕掛けが、プログラムの成功に繋がる重要な要素だと考えています。次の節では、前野先生が提唱する幸せの4つの因子に対して、コモンビートのミュージカルプログラムがどのように影響しているかを具体的にご紹介していきます。
“呼ばれたい名前で呼ばれるあだな文化” 肩書きに捉われないフラットな関係


コモンビートでは、年齢や役職に関係なく、「呼ばれたい名前」で呼び合う文化が根づいています。これにより、参加者同士が普段の肩書きや年齢に捉われずに、よりフラットで親しみやすい関係性が築かれ、お互いに対する純粋なリスペクトが生まれます。
最初は、目上の方へあだ名で呼ぶことや、逆に、自分よりも若いメンバーからあだなで呼ばれることに戸惑う参加者も多かったりするのですが、こういった役職や肩書に捉われずに自分を「ありのままに」表現できる環境にだんだんと居心地の良さを感じるようになります。こういった、自身と他者を「ありのままに」受け入れ、お互いへのリスペクトや感謝(=「ありがとう」)の気持ちを培っていく環境こそが、「主観的幸福感(ウェルビーイング)」に繋がるのではと考えています。
こうしたコモンビートのミュージカルプログラムのあり方に対して、前野先生からは「なんという新しいコミュニティのあり方だろう。もちろんのことながら、これは幸せの4つの因子を満たす状態と言えます」と評価いただいています。

自由記述から見るウェルビーイング
やってみよう因子 | 101日目からどう生きていくのか!熱い気持ちはあるが、何をしていいかわからない、行動してみたが上手くいかなかった。そんな人達の受け皿を作っていきます!まず、やってみます! |
ありのまま・ありがとう因子 | 自分の感情に素直になって、がむしゃらになることを忘れていた自分がいると、再確認できました。仲間を想い、涙を流したのは人生で初めての経験です。たった1つ、舞台を成功させるという目標のはずなのに、気づけば周りの人達が家族になって、オンラインでも話せるだけで気持ちが落ち着いたりする関係に。 |
なんとかなる因子 | 人とつながる事が苦手だったけど、その大切さと温かさにこの仲間から気づかされた。大変なことだらけでも、たくさんの人に助けられ、支えられなんとか乗り越える事ができた。今日から日常に戻ってしまうけど、この素敵すぎる仲間が自分にはいるという事を忘れずに、前を向いて生きていきたい。 |
Well-beingとエンターテイメントの関係やそのための場作りにご興味ある方は、ぜひプログラム体験会やその集大成であるミュージカル公演、そして、公演同時開催の解説つきバックステージツアーなどにお越しください。また、企業研修のご依頼等もお待ちしています!