「心もとない自分らしさを抱きしめて 〜ミュージカルと仕事のはざまで芽生えたもの〜」青木理佳【人生アンサンブルvol.3】 | NPO法人コモンビート

「心もとない自分らしさを抱きしめて 〜ミュージカルと仕事のはざまで芽生えたもの〜」青木理佳【人生アンサンブルvol.3】

“自分らしく、たくましい個人を増やし、互いの多様な価値観を認め合える社会の実現を目指す” NPO法人コモンビート(以下、コモンビート)は、さまざまな年齢や職業の社会人・学生100人が集まり、お互いの個性を響き合わせて創り上げる「100人100日ミュージカル®プログラム」を全国各地で開催しています。

そして、プログラム参加者の生の声をリアルタイムでお届けするマガジン、『人生アンサンブル』がスタート。第3回は2022年7月にコロナ後初となる東京公演に参加した青木理佳(りか)にインタビューを行いました。このプログラムで彼女は、どのような経験をし、どんな学びを得て、その後の人生にどんな変化や影響をもたらしたのか──。『人生アンサンブル』、スタートです。

「あの人のようにはなれない」 そう思って、ずっと一歩を踏み出せなかった

今回の主役・りか。「頑張りたい」という想いがありつつも、周りの人が活躍する姿を見ては「あの人みたいにはなれない」となかなか自信を持てませんでした。

……でも、それってきっと、誰にでもあること。
仕事でも、勉強でも、趣味や人間関係でも。
心のどこかで「自分はまだまだだな」と、もやもやしてしまう瞬間ってありますよね。

りかもそんなひとり。そういうことは仕事や勉強や地域活動などで、みなさんも思ったことがあるのではないでしょうか?

でも、彼女にはひとつ、ずっと気になっていたものがありました
──それが「コモンビートのミュージカル」。

元々ミュージカルが好きで、歌うのも大好きだった彼女。友人が舞台に出演したという話を聞いて以来、心の奥でずっと引っかかっていました。
SNSで「コロナ禍を経て、公演再開」のお知らせを見た瞬間、気持ちが一気に動きました。

「今しかない」──そう思って、応募ボタンを押したあの日。
そこから、彼女の新しい物語が静かに、でも力強く動きはじめました。

くつがえされた「それなり」のイメージ

りかは、それまでコモンビートのミュージカルを観たことがありませんでした。
だからこそ、心のどこかでこんな不安を抱いていたのです。

「もし稽古がなんとなくで、本番も“それなり”の舞台だったら――」。

そんなお稽古や舞台だったら、せっかく飛び込んだ意味がない。そんな一抹の不安を感じていました。「自分を変えたい」「何か新しいきっかけを得たい」──そんな期待を胸にこの場に飛び込んだからこそ、意味のある“挑戦”や“成長”を求めていたのです。

では、実際に彼女が経験したものは、どんな世界だったのでしょうか?尋ねてみると、りかはこんな言葉を嬉しそうに返してくれました。
「素人だからって、妥協は一切なかったんです」
「みんな熱量がすごくて、それぞれに目標がありながら、全体として一つにまとまっている感じがした」
「お互いに自然と助け合える、そんな仲間に出会えました」
コモンビートの練習では、誰かがふとアイデアを出すと、すぐに別の誰かがそれに反応し、さらに別のアイデアが重なっていく。そんな、創造が循環する場がありました。
とはいえ、常に熱くなければいけないというわけでもなく、それぞれが“自分らしい関わり方”で場に貢献できる、そんな空気感もあり、温かく、自由な雰囲気がありました。

願いをのせて、変化への一歩を踏み出す

ミュージカルの終盤に登場する「願いをのせて」という楽曲。その曲を、初めて稽古で仲間と共に歌ったときのことをりかは今でも鮮明に覚えていると言います。
「一人ひとりの声が重なり合い、ハーモニーが生まれ、想いが空間を満たしていく。」
その圧倒的な一体感に、気づけば涙が溢れていました。
「私たちの身体って、こんなにも力を持っているんだ」
同時に、世界や日本で今も続く戦争、差別、分断といった現実が、彼女の心をよぎります。
文化や価値観の違いが争いを生んでしまう、この世界で――。

それでも、「この希望の歌を届けたい」と強く思いました。
「言葉を超えて心を動かすメロディーがある。」
「自分たちの身体で、そのメッセージを伝えることができる。」
その確信が、りかにとっての「変わりたい」という願いを、より強い意志に変えました。

たとえ小さなことでも、何かを変える一歩は、誰にでも踏み出せる。
そう信じられるきっかけが、ここにはあったのです。

心もとない自分らしさ、それでいい

実は、りかさんは、ミュージカルを始めた頃に、新しい職場でも働き始めていました。「ミュージカルも仕事も、どっちも頑張らなきゃ!」――そんなふうに、気負っていたと言います。もしかしたらそれは、「ちゃんと応えられるのかな?」という不安の裏返しだったのかもしれません。

では今、りかさんは仕事にどう向き合っているのでしょうか。少しはにかみながら、こう話してくれました。
「魔法みたいに、ぱっと全部が変わるわけではないのですが…でも、変な不安は、なくなってきた気がします」

目指す人に今すぐ追いつける自信はまだない。
でも、変な不安は、もう手放せている。
それは、コモンビートで出会った仲間たちの存在が大きかったからです。

「あなたってこう見えるよ」
「こういうところ、すごく素敵だね」
「自分はこう思うんだけど、どう思う?」――

そんなふうに、たくさんの言葉をもらいました。
誰かのまなざしを通して自分を見ることで、少しずつ心が軽くなり、視界が開けていったのです。

「もっと自分を高めたい」
「周りに輝いている人がいたら、ちゃんとそのことを伝えたい」――
そんなふうに、考え方も、行動も、自然と変わっていきました。

もちろん、憧れる人は今もいます。けれど、無理にその人と同じようになる必要はない。
“自分は自分のやり方で進めばいい”
そう思えるようになった今、りかさんは以前よりずっと、心に余白を持てるようになっています。

「まだまだ心もとない“自分らしさ”だけど、それでもいいんです。
無理に急がなくていい。そんな自分を、ちゃんと抱きしめていられるようになりました」

そう語る彼女の言葉は、静かだけど、どこか芯のあるあたたかさに満ちていました。

きっと「自分らしさ」とは、頑張ってつくりあげるものじゃない。
すでに自分の中にあるものに、気づいていく旅なのかもしれません。


最初は、正直なところ、自分が劇場の舞台に立つ姿なんてまったく想像できませんでした。でも今は、本番が待ちきれない。濃い練習を重ねてきて、「このキャストの、この場面を見てほしい!」そう胸を張って言えるシーンが、いくつもあります。
コロナ禍で、80人を超えるキャストがひとつの舞台に立つことは、簡単ではありませんでした。それでも――「なんとしても幕を開けたい」「今だからこそ、作品を届けたい」その一心で、走ってきました。
本番の90分間、一人ひとりのお客様の胸に何かが響く、そんな空間をつくれるように。沢山の大人によるエネルギーが溢れる舞台を届けられるように。


『一人ひとりの小さな変化が、よりよい社会を創る。』

あなたも一緒に、ステージに立ってみませんか。ぜひ劇場にも足をお運びください。お待ちしています。